2023年5月8日月曜日

悪魔のサブスク

  安アパートで妄想する。

 金が幾ら幾らあったら、何々を買い、何々をして……

 あぁ、虚しい。

 幾ら働いても最低賃金ぐらいの手当てしかない。


「金が欲しい!」

 そう呟いたら、悪魔が現れた。

 思った以上に悪魔的なビジュアルに胆を冷やす。

「ベタベタな悪魔出てきたな」

「そうでもしないと信用しないだろ?

 色々やってきたんだぜ、美女に怪しい紳士、幼女、ショタ……でもお前はそんなのに騙されるか?」

 言われればそうだ。


 そうともなれば契約が早い。

「お前の魂をそっくりそのまま貰うと言う契約も悪くないが、近頃は少しずつ貰っていって、末永く生きて貰うってのがトレンドなんだ」

 悪魔の世界でもトレンドがあるのかよ。


 契約はこうだ、悪魔は魂の"回復分"を定期的に奪っていくが、代わりに銀行口座や有価証券、土地などの換金性のある資産の合計が三百万切ったら、一千万振り込むというのだ。

「それは非課税なんだろうな?」

「言うと思ったよ。源泉徴収込みの手取りで一千万だ。年末には年末調整の紙もくれてやる。好きに確定申告しやがれ」

「それは良かった」


「では早速戴くとしよう」

 そう言って、悪魔は姿を消した。

 ネットバンキングで口座を見てみると、アクマ ホジュウブン……10,000,000と入っている。

 通帳に悪魔なんて字が入る日が来るなどとは思っても見なかった。


 それから生活は激変だ。

 今よりずっといいタワマンに住み、日中から飲み歩き、食べ歩き、ギャンブルに無駄な買い物。女遊びは思ったよりも性に合わなかった――高級ホテヘルなんかを呼んだけど何というか、馬鹿にされているような気がしたので無理だと思ったのだ。

 いずれにせよ愉快な生活だ。

 魂が削られていると言うのに、健康そのものだ。

 こういう話だと、何かどえらい代償がありそうなものだが、そんなことはない。


 贅沢が身についてきた頃、日本は近隣と戦争を始めた。

 勿論、攻められる側の立場だった。

 政治の事についてアレコレ考えるのは面倒くさいし、興味もない。

 徴兵制が復活するとかしないとか言ってるが、俺は年齢的にナシだろう。

 俺みたいな能なしが行っても足手まといになるだけだしな。


 戦争で生活必需品が消えてなくなると言う事はなかったが、インフレーションが起きた。

 一千万という金が目減りしていく。

 あぁクソ!


 戦争はその後、非核世界大戦へと移っていった。

 楽しい事は全部奪われ、金があっても言うほどはっちゃけられない。

 うっかりしてたら、通りすがりの愛国者にぶん殴られてしまう。


 五年後、世界大戦は終結。

 日本の本土が狙われる事は殆ど無かった。

 少なくとも東京にいる限り、物資からなにから安泰だった。

 しかし、世界経済は大混乱だ。

 世界的なインフレーションに加えて、各国の財政は崩壊寸前となった。

 その時、日本円、ユーロ、ドルを会わせて基軸通貨を作ろうと言うことになった。

 通称YESの誕生である。

 円の価値は随分下がっていたので、国民は諸手を挙げて賛成した。

 日本円は一年後廃止になり――つまり、俺には1円も振り込まれる事はなくなった。


 贅沢していた分、生活は苦しい。

 またぼろアパートに戻らなければならないのか……

 魂はどれだけ削られているだろうか?


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