安アパートで妄想する。
金が幾ら幾らあったら、何々を買い、何々をして……
あぁ、虚しい。
幾ら働いても最低賃金ぐらいの手当てしかない。
「金が欲しい!」
そう呟いたら、悪魔が現れた。
思った以上に悪魔的なビジュアルに胆を冷やす。
「ベタベタな悪魔出てきたな」
「そうでもしないと信用しないだろ?
色々やってきたんだぜ、美女に怪しい紳士、幼女、ショタ……でもお前はそんなのに騙されるか?」
言われればそうだ。
そうともなれば契約が早い。
「お前の魂をそっくりそのまま貰うと言う契約も悪くないが、近頃は少しずつ貰っていって、末永く生きて貰うってのがトレンドなんだ」
悪魔の世界でもトレンドがあるのかよ。
契約はこうだ、悪魔は魂の"回復分"を定期的に奪っていくが、代わりに銀行口座や有価証券、土地などの換金性のある資産の合計が三百万切ったら、一千万振り込むというのだ。
「それは非課税なんだろうな?」
「言うと思ったよ。源泉徴収込みの手取りで一千万だ。年末には年末調整の紙もくれてやる。好きに確定申告しやがれ」
「それは良かった」
「では早速戴くとしよう」
そう言って、悪魔は姿を消した。
ネットバンキングで口座を見てみると、アクマ ホジュウブン……10,000,000と入っている。
通帳に悪魔なんて字が入る日が来るなどとは思っても見なかった。
それから生活は激変だ。
今よりずっといいタワマンに住み、日中から飲み歩き、食べ歩き、ギャンブルに無駄な買い物。女遊びは思ったよりも性に合わなかった――高級ホテヘルなんかを呼んだけど何というか、馬鹿にされているような気がしたので無理だと思ったのだ。
いずれにせよ愉快な生活だ。
魂が削られていると言うのに、健康そのものだ。
こういう話だと、何かどえらい代償がありそうなものだが、そんなことはない。
贅沢が身についてきた頃、日本は近隣と戦争を始めた。
勿論、攻められる側の立場だった。
政治の事についてアレコレ考えるのは面倒くさいし、興味もない。
徴兵制が復活するとかしないとか言ってるが、俺は年齢的にナシだろう。
俺みたいな能なしが行っても足手まといになるだけだしな。
戦争で生活必需品が消えてなくなると言う事はなかったが、インフレーションが起きた。
一千万という金が目減りしていく。
あぁクソ!
戦争はその後、非核世界大戦へと移っていった。
楽しい事は全部奪われ、金があっても言うほどはっちゃけられない。
うっかりしてたら、通りすがりの愛国者にぶん殴られてしまう。
五年後、世界大戦は終結。
日本の本土が狙われる事は殆ど無かった。
少なくとも東京にいる限り、物資からなにから安泰だった。
しかし、世界経済は大混乱だ。
世界的なインフレーションに加えて、各国の財政は崩壊寸前となった。
その時、日本円、ユーロ、ドルを会わせて基軸通貨を作ろうと言うことになった。
通称YESの誕生である。
円の価値は随分下がっていたので、国民は諸手を挙げて賛成した。
日本円は一年後廃止になり――つまり、俺には1円も振り込まれる事はなくなった。
贅沢していた分、生活は苦しい。
またぼろアパートに戻らなければならないのか……
魂はどれだけ削られているだろうか?
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