2023年5月8日月曜日

異能バトルモノ習作

 

 一般的な人には知られていないが、世の中には極僅かに特殊能力を持っている人間がいる。
 我々はそれを管理し、社会のために使う非公認の政府機関である。
 日々能力者を見つけ出し、我々に引き入れるか、それができなければ処分する事にしている。

 しかし困ったことが起きた。能力者をサーチ中のエージェントが能力を失った。
 当然疑われたのは、その時サーチ対象だった男だ。
 田中ヒロキ、二十九歳、職業はフリーターだ。
 当該エージェントはそれ以降、能力が戻る事はなかった。
 断片的に得た情報から、恐らく人の能力を奪う能力であると判断されたが、一切情報がない。
 兎に角、この男を監視し、必要があれば処分しなければならない。
 我々は長い長い会議をする必要を強いられた。幾ら秘密の組織とは言え、人一人を殺してしまうには思い判断もしなければならない。管理権限のある人間の中には能力者がいる。そういう者達にとって、よく分からない能力者だから処分しようという判断は受け入れられるものではないからだ。

 先ずは接触しなければならない。
 アンチスキルの能力者を派遣した。
 いきなり暴力的に動くとは思えない。

 彼女はじんわりとした方法で近付いたが、声を掛ける前に能力を失った。
 彼女は安全のために、スキルを使いながら近付いたのである。
 その状況での接触は危険だと、第一次接触は失敗に終わった。

 兎に角情報を――技術的な限界を超えてハッキングできる能力者によって、彼の全てが調べられた。
 しかし、途中でこのエージェントは力を失った。
 彼の力は、遠隔的な方法でも能力が使われたら能力を奪えるらしい。

「いやぁそれは困ったねぇ」
 所長が頭を掻いている。
 一部の行動班が動いているという。
 先ずは狙撃。エアガンの射程と威力と精度を上げられる脳力である。BB弾で頭を吹き飛ばせると言う訳である。
 だが、それは案の定失敗した。
 彼のテリトリーが無限なのか、それとも、能力が接触した瞬間に発動するのかは知らない。
 兎に角、音速を超える弾を使っても彼は止められないようだ。

 そうしている間に、彼は能力を悪用するようになったようだ。
 使ったのはハッキング能力。
 銀行の情報を改竄して、お金を作り出しているようだ。

 具体的な犯罪に至るのであればもう処分しかない。
 そういう話に傾いていった。

 そうしている間に事件は起きた。
 銀行である。
 彼が銀行に用があったと言うよりも、銀行に用のあった能力者を狙うのが目的だろう。
 銀行強盗を企てた能力者のすぐあとに入店して、そして彼等が能力を行使しようとした瞬間、あっという間に彼等の能力を奪った。

 彼が奪った能力は何であろうか?
 問題の銀行強盗は、強盗に至る前に能力を奪われたので、ただ単に銀行内で騒いだ面倒くさい人とされた。
 なので、彼を見つけ出すのに苦労をした。

 さて、そういう調査をやっている間に、次々に能力を奪われる者が現われた。
 我々が捕捉する前の能力者もいれば、非番中のエージェント、命令無視で突っ込んで行ったエージェント。
 彼はもう殆ど無敵の能力者になっていた。
 非能力者による襲撃でも無効化されたし、捏造した事件の犯人に仕立て上げても、あらゆる能力を行使して、捜査を妨害された。
 狙撃でも接近戦でも彼を仕留める事は出来ないだろう。

 そうなると秘密兵器を使わざるを得ない。
 メタスキルの能力者だ。
 メタバースを行き来できる能力者、包括的にスキルを停止させる能力者、精神まで貫通できる"衝撃"を与える能力。
 殆ど総力戦である。
 だが、この戦いにも彼は勝利した。
 彼の能力もまたメタスキルだった。否、その上の階層まで届く能力だったようだ。

 その後、彼の脅威を聞きつけた海外の組織も、彼を獲得なり処分なりしようと動いたが、成功したという証拠はない。
 我々が与えてしまった能力を使い、襲撃者は別の次元へと消されてしまったのだろう。

 彼は増やしたお金で、そこまで目立った遊びもせず、ただただ日常を楽しんでいた。
 政府はたかだか年間数千万もしない金で彼が好きにするのなら、触れないでおくべきだと判断した。

 我々はただただ監視を続けるだけだ。
 願わくば、彼のようなスキル持ちが現われない事を祈るだけだ。
 我々には他にも仕事がある。他にも能力者がいる。

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