2023年5月8日月曜日

人の世界ドラゴンの世界

 

 気が付いたら異世界にいた。
 確か自分は高校生で、学校で授業を受けていた筈……あれ、中学生だったかな? 薄らぼんやりと大学生のような気もする。ひょっとしたら成人済みで会社に通っていたか?
 記憶が酷くあやふやだ。
 でも、明らかに自分はこの世界の者ではないと言うのははっきりしている。
 目の前にドラゴンがいるからだ。

 白衣を着た男性と、ナース服を着たドラゴンがいる。
 彼等曰く、川を流れていた所を助けられたという。
 僕は素直に自分がこの世界の者ではないと伝える。
「何故そう思われるのです?」
 白衣の男が訊ねる。
「いや……何というか、僕の世界にはドラゴンがいませんので」
 と、ナースの方に目を向ける。
 そのドラゴンは、皮膚や首から上は全く爬虫類的というか、ドラゴン的特徴を持っていて、身体の部分は人間の女性的特徴を持っている。
 僕がそのような仕草をすると、"彼女"ははっとした顔をする。
「どうして、ドラゴンって分かったんですか!」
 僕が「そりゃぁ……」と言い出そうとしたところで、白衣の男は言葉を遮った。
「記憶が混濁してるのかも知れないね!」
 そう言って、彼は僕を街へと連れ出した。

 街は如何にも転生モノと言う感じの近世ヨーロッパだった。
 見とれていると、「珍しいかい?」と微笑んできた。
 僕は笑いながら、「馴染みがないので」と答えた。

 先ずは自己紹介からだった。
 彼はパトリックといい、ナースはオリヴィアと言うそうだ。
「君は?」
 と訊ねられるので「タツヤです」と答えた。
 しかし、さっきから自分の声に違和感しかない。
 身長もなんだか低く感じるし……そうやって、商店の硝子窓を見る――そこには十二、三歳の少女が映っている。
 度を失ってしまった。ひょっとして、これが私なのか?

 突然挙動不審になった僕の事を、パトリックは訝しむ。
「あ、えっと、その名前はあまり使わない名前で……カンナと呼んで下さい」
 彼は「そういう文化もあるのか」とこの咄嗟の嘘に納得してくれた。
 よくこんな嘘や、適当な名前が思いついたモノだ。自分的にファインプレーだ。

 彼は"私"の世界について色々と訊ねて、私は逐一それに答える。
「私のような人が沢山いて……と言うか他の種族はいないんですよ」
 納得したような顔はしないが、「あまり人前でそういう話はしない方がいい」と忠告した。
 それからこの世界の事を色々と教えてくれる――といっても、彼自身、自分の国のことしか知らないようだけど。

 この街の隣にある樹海と山脈にはドラゴンが暮らしていた。
 彼等の寿命は千年ほどだが、ここ八百年ほど新しい子供が産まれなかったという。
 この世界でドラゴンは圧倒的少数派なのだ。
 彼等は己の絶滅を悟り、彼等の文化を伝え残す為にこの街の人間と交流することになった。
 それがざっと十五年前。

 元々この街には教会が来る前にはドラゴン信仰があり、町の人は素直にドラゴンを受け入れた。
 ドラゴンは人間に様々なことを教えてくれた。
 そのお陰でこの街は豊かになったし、自分が医者をやっているのはドラゴンの知識のお陰だという。

 しかし、教会や国はドラゴンとの文化交流には消極的で、ある日代官が交代になって、ドラゴンを追い出そうとしていた。

 でも、街の人間は一枚上手だった。
 先の戦争で資金不足に陥ってた国に、ドラゴンは惜しみなく己の財宝を提供したという。
 ドラゴン自身は、自分たちの絶滅を受け入れていたし、そうであるなら自分たちの文化が、少しでも人類の手元に残っている方がいいと考えていたからだ。
 代官は、それに一枚噛んで、上手いことをやったらしい。

 結局、ドラゴンはこの街にならば暮らしてよいという事になった。
「いい話じゃないですか、なんでその……ドラゴンをドラゴンって呼んじゃダメなんですか?」
 さっきのナースとのやり取りが何処となく引っかかる。
「君はそういう気遣いがいらないのかも知れないけど……普通、ドラゴンはしっかりと人間に変身しているつもりになっている。彼等の自尊心を傷つけたくない。それは街の人間の総意だ。
 ドラゴンに出逢っても普通の人間として接してくれ。
 ドラゴン自身も人間に配慮してやってくれているんだ。君だってそうだろ?」
 と、ぼんやりとした理由を説明された。
「私が君の身元引受人になろう。だから、君も街に馴染んでくれ」
 そう言って、再び診療所へと戻った。

 彼とナースはどうやら夫婦のようだった。
 診療所の上の階に彼等は暮らしていて、十歳届かないぐらいの子供が四人いた。二人が男、一人が女の人間で、一人は間違いなくドラゴンであった。
 四人仲良くしていて、二人の親を見て笑顔で駆け寄ってくる。
 父親は僕を紹介する。
「彼女が、今日から一緒に暮らすカンナだ。みんな挨拶しなさい」
 子供が次々に自己紹介する。
 長男のネイト、長女のアビー、次男のジーン、二女のルシルだ。二女がドラゴンの子である。
「お姉ちゃん! これからよろしくね!」
「よろしくね」
 素直そうな子達なので安心した。

 それからこの街での生活が始まる。
 私は子供の世話と、診療所の手伝いをする事になる。
 街のことも少しずつ覚えていく。
 ラリー商店は可愛い洋服を仕立ててくれるし、スタンの店のパンはもの凄く美味しい。鍛冶屋をやってるドラゴンのサムは診療所で使う道具を作ってくれる。
 教会のグラント司祭はこの街の出身ではないが、街の伝統的な祭事に好意的だ。
 綺麗な水と豊かな緑、周囲の平地は実りの良い畑が広がっている。
 交易上の要所ではないが、川港は賑やかだ。国から見れば辺境の一都市だがそれ故に争い毎もなく繁栄を続けている。

 全体的に裕福なので、犯罪ごともない。
 善良な人達しか見掛けないと言っても過言ではない。
 街は元々繁栄していたが、ドラゴンのお陰でより豊かになったと皆が言う。
 知り合ったドラゴンにそういう話をすると、とてもいい笑顔をしてくれる。
「お互い鼻が高いね!」

 彼等は博識で、そして自分の知識を気前よく教えてくれる。
 機械的な技術はそれほどだが、工芸品の品質は世界的に評価されていると言うし、自然に対する知識が豊富だから、それを活かして良薬が沢山生み出された。
 計算も人間よりずっと速くて、それ故にドラゴンに教えを請う為に越してきた学者までいるぐらいだ。

 そういう知識は、概ね人類にとって利益になっていて、それを悪用する人間も出てくる。
 だが、ドラゴンは人間の正邪を嗅ぎ取る能力があるようだ。
 そういう人間には何も教えず、何も与えない。

 国にとって、ドラゴンは商業的利益には適うけど、軍事的な利益には結びつかなかったのだ。
 当初の問題もあって、教会や王室からは疎まれているのは間違いない。

 街の人口は四千人ほど。そのうちドラゴンが三百"人"。少なくとも彼等の認識しうる範囲で、全世界のドラゴンはそれで全員だ。
 街の人とドラゴンとの融和は穏やかに確実に、そして強く成されている。
 パトリック、オリヴィア夫妻はドラゴンと人が結ばれた初めてのケースで、その後少しずつ人間とドラゴンの結婚が増えて行ったそうだ。
 ドラゴンって絶滅危惧だったのでは? と思ったけど、ルシルの誕生はドラゴンにとって吉報ではあった。
 逆を言えば、それが原因で人間と付き合うドラゴンが増えて行ったというのもある。
 現在、七十組ぐらいの夫婦がいて、例外なく子供がいると言うから凄い。
 そう言えば、八百年ドラゴンが生まれなかったという事は……年齢のことに関しては言うと怒られそうなので黙っておこう。

 子供たちは賢く、良く笑い、そして善良だ。
 夫妻の仲もいい。親切にしてくれるし、生活で困ったことはなかった。
 ファンタジー転生モノでありがちな、生活様式に苦しむと言う事はない。湯を沸かし風呂にも入るし、トイレも水洗で清潔だ。
 ドラゴンのお陰らしいのだが、上水道も下水道も整備されている――下水は川の下流に流すのだけど。人口から考えたら問題になるほどではないか。
 はっきり言って出来過ぎていると思わないではない。
 でも今の生活には満足しているし、何か善悪を疑うような出来事もない。
 会う人会う人が気持ちのいい人ばかりだ。

 七年はあっという間だった。
 その間に、新たなカップルが生まれたり、子供が産まれたりした。
 夫妻の子供も育っていく。
 一方、私は一切歳を取らない。身長も容姿も変らない。
 流石におかしいと思われているだろうが、彼等がドラゴンを特別扱いしないのと同じで、私の事について格別触れる事はない。
 一度心配になってパトリックに尋ねたのだけど、「不思議なことを訊ねるね」と微笑を漏らした。
 そして「君は君が思うように、本当に転生しているのかも知れないけど、それも受け入れるのが我々の美徳だよ」と教えてくれる。

 子供たちは相変わらず私を「お姉ちゃん」と呼ぶのだけど、そろそろ独り立ちの時期である。
 ドラゴン的に十代後半はまだ赤ちゃんみたいなものだろうが、ルシルは人並みに大人の人格を持っている。
 それぞれ多くのことを身に付けて、立派に成長している。

 そんな時期に世界は災厄に襲われた。
 伝染病である。
 我が町に伝染病の情報がもたらされた頃には、どこのどこの国は人口の半分以上が亡くなったとか、王都でも流行して沢山の感染者が出ていると報告されるレベルだ。
 人の交流が少ないこの世界でも、情報が入ってから半年程度で病気は蔓延した。

 ドラゴンやその子供たちは、街の人々に恩義を感じているので、彼等の看病に熱心だった。
 ただ、ドラゴンの英知を以てしても病魔に対抗する事は適わない。
 亡くなる人は他の国より少ないとは言え、沢山の人が亡くなったし、感染者は命をつなぎ止めているに過ぎなかった。
 私はマスクの重要性を説いたのが幸いして、人口の半分ほどの感染に抑えられた。
 私は賞賛されたのだけど、ドラゴンの熱心な看病に勝るものはない。

 街を病が襲って半年、感染者の半分は亡くなった。その中に、医師のパトリックも含まれていた。
 オリヴィアは気丈に振る舞い、子供たちと共に病に立ち向かっている。
 ここに来て判明したのは、感染者に対する接触の多いドラゴンとその子供、そして私は一切感染しないという事だ。
 感染を免れた多くの人は部屋に引きこもり、彼等の仕事をドラゴンが肩代わりするという具合だ。
 周囲の村落には、人々と接触しないように伝えたので、畑の荒廃は最小限に収ったようだ。

 少なくともこの街での感染拡大は収った。
 では、他の街ではどうなのだろうか?
 情報が入ってこない。
 伝令官すら亡くなってしまったのだ。

 代わりにドラゴンが街々を巡って情報を集めてきた。
 流石にドラゴンに対する抵抗が大きかったそうだが、それでも収穫は多かった。
 幾つもの街が滅び、王都でさえ死者の埋葬が間に合わず、街路に沢山の亡骸が朽ちているらしい。
 王室はドラゴンの面会を拒否したそうだが、彼等は人との接触を避けて孤独に暮らしているそうだ。
 穀倉地帯でも沢山の村が全滅していて、今年の収穫は絶望的だという。
 「世界が終わろうとしている」とまで形容される。

 しかし、ドラゴンとその子孫は病魔に倒れず、彼等の手によって命をつなぎ止める人もいると言う情報は、世界の人の希望になった。

 多くの人が街に押し寄せる事になった。
 ただ、街道では途中で倒れる人が多数出て、街に至るまでに死屍累々となっていると言う。
 感染は再び拡大した。
 ドラゴンは善良だが、手数は足りない。
 人々を追い出すという事はしなかったが、建物が足りない。
 長らく発症してない人、病から助かった人を集めて街の建設に駆り出し、一方流入した人々は隔離して、一定期間発症しない人が街に入ることが許された。

 そういう対策をしっかりこなしてもやはり亡くなる人は多い。
 ドラゴンとその子供は合計千人に満たない。
 流入量は街の人口のざっと三倍。
 死者は日に日に増えていく。
 助かった人もいつ病魔に冒されるやも知れぬと自暴自棄になる。
 こういう状況では、享楽的に生きる人も出てくる。
 どうせ死ぬなら楽しもうと言う訳である。
 治安が悪化していく。

 私も危険な目に遭う。
 その度に、ドラゴンに助けられる。
「子供でも見境のない人間もいるんだよ。カンナちゃんも気をつけなさいね!」
 確かにちんちくりんではあるけど……

 ドラゴンもその子供も、人間より丈夫で腕力もあった事から、彼等が犯罪者に後れを取る事はない。だが、ここでも数の問題が発生したわけである。

 子供を作るならドラゴンとの子がいいと思う人々も出てくる。
 結婚してないドラゴンが懇願されて性交渉に至る事も出てきた。
 人間の女性の場合、多くても三つ子までだが、妊娠中に病に倒れる事は往々にしてある。
 一方、雌のドラゴンは四~五個の卵を産むし、妊娠期間も短い。雌のドラゴンは目が付けられるのだ。

 子作り問題は王都にも波及する――遂に、王室から国を永続させる為にと王子や貴族がやってきてせっせと小作りに励むのだ。
 "フリー"のドラゴンに懐妊を頼んでも、誰の子が産まれてくるか分からない。
 そうなると、未亡人のドラゴンに白羽の矢が立てられる――オリヴィアがその一人となった。
 有力貴族の子息や王子がやって来る。

 オリヴィアが交わったのは第一王子である。
 四つの卵を産み、羽化して人間だと分かった三人を、王室は喜んで引き取った。

 厄災はもう十年と続き、沢山の人が死に、沢山の人が街に助けを求め、そして沢山のドラゴンとその子供が産まれた。

 大人になったパトリックとオリヴィアの子供たちも、子供を設けていたが――病に対する免疫は一代限りのものだと分かるようになる。
 ネイトの妻は妊娠中に亡くなり、ジーンの妻は三人子供を産み、大切に育てたが三人とも成人する前に伝染病で亡くなった。

 悲しむ子供たちを私とオリヴィアは慰める。
 一方、ルシルの子供は丈夫そのもので、病の陰りなど一切無関係だった。

 アビーは人間ながら"産卵"した。こんな事は初めてのケースだ。
 どうやら相手もドラゴンとのハーフだからと言う理由じゃないかと考えられた。
 アビーの子は一人がドラゴンで、もう一人の子は何処かしら人間味から外れる人間の子だった。
 その子が育つかは人類存亡に関わる一大事だった。

 結論から言えば、ルシルの子もアビーの子も順調に育っていく。
 病気の蔓延は相変わらずだが、数少ない明るいニュースとなった訳だ。

 オリヴィアが王子と作った子供のうちドラゴンの子であるアレックスも成長していく。
 順調なら兄弟もきっちり育っている筈だ。
 出生の秘密については黙っておくことにした。
 彼には他の"可哀想なドラゴン"と同じだと説明した。
 兄、姉と血の繋がりがない事は彼を悲しませたけど、それでも曲がらず、歪まず育っていく。

 人々の流入は減っていった。
 全世界的に人間が減っているのだ。
 ドラゴンが定期的に国の様子を見回っているが、滅びた街は増えて行くばかり。
 王都も王子達を育てる為だけに存在している有様で、それも限界になってきている。
 他の国の様子はどうだろう?
 ドラゴンが国境を越えれば大事だったが、何の反撃もない――何故なら殆ど滅びるか、その一歩手前だからだ。

 更に十年、病は過去になった。
 知りうる限り人間の都市はこの街と、王都だけのようだ。
 小さな村落が人との交流を断って生きているようだが、文明と呼べるレベルではなかった。

 王都はドラゴンのハーフ達が、辛くも助かった人々を引き連れて生活しているらしい。
 人口は王都が千人足らず、我が町でも三千人程度で殆どはドラゴンとその子供だ。

 しかし、王都と我が町の交流は途切れている。
 何故なら、王都はドラゴンを否定して、"より純粋な人間"による世界を創ろうとしているのだ。
 彼等は自分の出生の秘密を知らないようで、病魔に冒されなかったのは自分たちが選ばれた人間だと考えているようだった。

 我が町は多かれ少なかれ、ドラゴンの血が混じっている人が人口を占めるようになる。
 時代は移り変わり、少しずつ文明は進歩していく。
 もはや我々は外界の人類をどうしようとも考えなかった。

 私はオリヴィアや他のドラゴンと仲良くやっているので、楽しい日々を送る。
 ドラゴンの血が多い人ほど、ドラゴンの能力を色濃く持つようだ。それは寿命に関しても同じだった。

 人間は寿命が延びると、その分、様々な練習や学習に生涯を注ぐことが出来る。
 それが文化や文明や科学を発達させるに至る。

 街は少しずつ大きくなる。
 移住する人も出てくる。
 廃墟となった街は少しずつドラゴンたちが暮らすようになる。

 王都との衝突は避けられなかった。
 その時、外交官として働いたのがアレックスだと言うのは、皮肉だろうか。
 年老いた兄弟達と兄弟と知らずに折衝する。
 戦争に至ることはなく、領土を適宜協議する事になった。

 人間の人口増加もそんなに悪いモノではなかったようだ。
 だが、王族と貴族はその交わりを限定された関係で営んでいたから、当然、ドラゴンの血は濃くなるばかりだ。
 ドラゴンを産んだ女性は、そのドラゴンと共に追放される――ドラゴンの血を断絶しようと必死になったのだ。
 結果として、"顕性"の人間を選り好み、ドラゴンの血筋の濃いが人間に見えるドラゴンが、人間の世界を支配するようになった。

 我々は戦争を避けた。場合によっては人間に都市や開拓地を明け渡してでも、平和を希求した。
 お陰で、人間側の国は我々から収奪をするのが生業となる。

 彼等が十分に増長した頃、流石のドラゴンも反旗を翻す。
 人間の世界よりも我々の文明は進歩していたから、彼等を撃退できるのだ。
 積極的な戦争には至らないが、収奪は阻止できた。
 結果として、人間の国は行き詰まっていく。

 行き詰まった人類の不満は、王室へと向かう。
 人類生存のための国という大義名分は、彼等を許さなかった。
 王族は自分たちの血筋が十分に濃いドラゴンだと理解してたから、たまらずドラゴンの世界へと逃げていく。
 彼等はドラゴンの世界で一派を築こうとしたが、それは適わず、少しずつ順化していく。

 人間の国は、相変わらず収奪を行っているが、一部はドラゴンの軍門に下る。
 そういう境界線上の国では、相変わらずドラゴンと人間が暮らしているが、かつての我々の街のような平和な街ではなさそうだ。

 人間らしい姿の人間は、我が町では私ぐらいになっていった。
 但し、彼等は私に対して親切でいるし、仲良くしてくれている。
 世界が二分している事は、常に我々の懸念ではあるけど、我々の世界は概ね平和だ。
 我々を受け入れないのは、極僅かな人々に限っている筈だ。

 我々の進歩は何処まで続くだろうか? そして、人間との格差は何処まで広がるだろうか?

 オリヴィア達と昔話をする。
「例の王子、実は貴方を抱きたかったみたいだよ」
「やめてよー」
「私も、こんな小さな子はやめてって言ったんだよ。少しは感謝してよね」
 彼女にしては趣味の悪い冗談だ。

 そう言えば、あの頃は人間達も気遣って人間として扱っていたという話をする。
 彼等は恥ずかしがるけど、いい思い出としている。
 彼等の気遣いが今の世界を創っている善意である。

 未だに純粋なドラゴンたちは、人間に化けている自分の姿が人間っぽい姿をしていると思っている。
「えー、完璧だと思うんだけど」
「よく言うよ。人間って言うのは私みたいなのを言うんだよ。
 どういう認識をしてるの? 私はどう見える?」
「うーん、可愛いドラゴンの子供だよ? 上手く人間に化けてる方だけどね!
 パトリックから話を聞いてたよ。ドラゴンだけの世界……夢みたいね。
 人間の世界に生まれた事って、ドラゴンには不幸だもの。そういう風に考えたくなるのも分かるわ」

 他の"人間"達にも訊ねる。
「いや……だって、君、ドラゴンでしょ? 成長の遅さから言って、人間から産まれてない純粋なドラゴンじゃないか。
 記憶喪失だって言うから、みんな気にしてたんだよ」
「さぁ、真の姿を見せて。今まで見た事がないんだ」

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