2023年10月30日月曜日

【全年齢版】ケモミミ少女になったのでエンタメで覇権を取りたいと思います④

  あるおっさんが、目覚めたらケモミミ少女だった話。



 ある日、美鶴が意を決したように妾に相談した。

「それほどまでに、この街が大切であれば、この街で出来る事を増やしては如何でしょうか?」


 最初、美鶴の意図が理解できないでおったが、ヤツは近所のまとまった土地を取得していたようじゃった。

 元々工場のあったが開発に失敗して、駐車場として眠っていた土地を買い取ったのじゃ。

「何をするつもりじゃ?」

 と妾が声を荒げると、「殺生石様の為のスタジオを作ります」とシレっと答えたのじゃった。

「お主なぁ!」

「私の方で勝手にすることですから、ご迷惑は掛けません」


 その日、家に帰り、菜瑠美ちゃんにその話をしたら、既に根回し済みだった。

「素敵なことじゃない?」

 暢気なものだ。

「もう少し広い所で配信してもいいんじゃない?

 それにゲストを呼ぶのも悪くないでしょう? 今まで散々コラボ配信の申し出断ってきたし」

 確かにそれもそうではあるのじゃが。


 何となく、美鶴が言ってた「良くないこと」に近付いているような気がした。

 尤も、その言い出しっぺの美鶴が招き入れた事態ではあるのじゃけど。


 美鶴はスタジオのデザインだ設計だで何だかんだと尋ねてくる。しかし妾は乗る気ではないので「今まで通りのことができればよかろう」と答えたのじゃった。


 美鶴は実際謎人物だ。

 金は大層持っているようじゃし、顔も広いようじゃった。

 地元テレビ局と引き合わせて、地元密着情報番組で、妾が散歩するコーナーを作ったりした。

 元々、癒されるCDの子と言う世間の理解があったので、妾は存外普通に受け入れられた。


 スタジオの建築が進む中、イベントスペースのあるお店で様々な配信者とトークイベントを行うことになる。

 勿論、その前に妾の判断が入る訳じゃが、大抵気乗りしないのじゃ。

 それで断り続け、色々と叱られることになる。

 アンチも増えたじゃろう。


 じゃが、美鶴や菜瑠美ちゃんが「たまには気に入らない人と話してみては?」と言うので、ある男性の有力配信者のコラボを受け付ける事にした。

 勿論、今まで拒否しておいて、有名人ならアリなのかと言われるのは間違いない。

 全くいい気はしなかったが、美鶴や菜瑠美ちゃんの言う事も一理あったのじゃ。


 そして、満を持してトークをしたときトラブルが発生した。

 男性は当初自信たっぷりであったが、妾が平凡な質問一つする度に顔が青くなって行った。

 それから突然、わっと叫ぶと、自分の過去の過ちを謝罪し始めた。

 配信者になる前に、ある詐欺事件に関わっており、そのカネを元手にあちこちと顔を繋ぎ、今の地位を手に入れたのじゃと。


 妾は別段何かをした訳じゃない。じゃが、明らかに不自然であり、明らかに何らかの現象が起きていた。

 男性配信者は妾にどうしたら良いかを尋ねる。

「被害者への謝罪と賠償、それと警察へ出頭して罪を償うがよろしかろう」

 そう伝えると、配信中じゃと言うのに、ヤツは帰って行ってしまった。


 それは余りにも衝撃的な事件じゃ。

 問題の男はすぐにチャンネルを閉鎖し、弁護士に必要なことを伝えると、そのまま事件の所轄警察署へと出頭した。

 ネットは騒然とし、妾の前で人は浄化されるのじゃと言う噂が立つのじゃった。


 誰もが自分にネガティブな過去があるものじゃ。

 コラボを申し出る声はぱたりと止んだ。

 妾との配信を蹴られて腹を立てていた配信者も、それらに関するSNSのポストを削除して何食わぬ顔をしておった。


 それで割と失礼な話ではあるが、素行の悪いと言うか、なんとなくイリーガルなイメージのある男性芸人が"罰ゲーム"として妾との配信を決めたのじゃった。


 しかし、この芸人について、個人的な感想ではあるのじゃが、悪いイメージがなかったのじゃった。

 そしてその話を受ける時も、心に引っかかるものはなかった。


 配信は割と和気藹々としておった。

 妾が思ったとおり、カメラの回らぬところでは気の使える男じゃったし、自分の芸でお客さんに絡みに行くので、それが嫌ならば最前列を避けてくれと言うアナウンスもしている。

 配信が始まれば、かなり突飛な言葉も出てくるが、絶妙に嫌な印象にはならなかった。


 ギャンブルもやるし、通年金のない話をしているが、しかしこの男が笑って話す借金が、いつぞの災害の支援のために走り回った結果じゃったし、ギャンブル関係の話も、無名時代に支援してくれたパチンコ店の社長への恩義が中心じゃった。

 じゃが、こういうことを妾が言えば、この芸人のイメージを損ねるじゃろうと黙っておいた。

 男の言動やコンテンポラリーな動きを笑い、そして喜んだ。


「むしろ妾がお主にギャラを払わねばならぬな。お主はいい人間じゃから」

 そんな話をすると、「あんた、心が読めるのか?」と真面目な顔をして答えた。

 男が言うには「心の中を見透かされている気がした」らしい。

 妾はそんなつもりは微塵もなかったが、「不快じゃったら済まぬ。じゃが、妾はお主のような人間はそれに恐れることもなかろう」と笑った。


「そう言うのやめてよー! 俺にもイメージってもんがあるの!」

 男は怒ったような演技をして、そして深々と頭を下げて帰っていった。


 あの芸人が大丈夫なら? あの時の事件はまぐれ?

 様々な憶測が飛び交う。

 そんな時、精錬潔癖なイメージというか、主婦の味方、子育て世代の応援を掲げる女性配信者が名乗りを上げた。


 ここまで来て、延々とそれまでの状況を語っても仕方あるまい。


 彼女は児童虐待を口走った。

 彼女は余裕の顔で妾との話を楽しんでおったが、突然文脈と関係なく、自分の息子に対する暴言を口に出したのじゃ。

 妾も彼女も一瞬何が起こったのか分からなかった。

 気を取り直して、同じ質問をすると、彼女は更に虐待を臭わせる告白をする。

 彼女は顔面蒼白になり口を抑える。

「大丈夫か!? お主!」


 彼女は何か返事をしようとする度に、自分の罪を吐いていた。

 時を同じくして、彼女の住む家から脱出した息子が近所の家に助けを求めていた。


 配信は停止し、彼女が家に戻ると、彼女は児童虐待で逮捕された。

 配信で自分の子供として紹介していた子供は知人の子供であり、そして実子は部屋に閉じ込め、縛り、食事制限をしておった。

 肉体的にも精神的にも暴行を行っており、大きな事件へと発展した。


 さて、これらの事件は妾を嘘発見器にさせたい連中を発生させた。

 何かご高説賜れば「お前は殺生石の前に立てるのか?」と尋ねるのは、"無敵の"論法じゃった。


 誰もが何かしらの罪を背負い、何かしらの問題を抱えている。

 それを妾がどうこうすると言うのは、妾としても気分の悪い話じゃった。

 それで妾は配信でこう言った。

「妾は嘘発見器にはならぬ。妾をそのような理由で利用する者は決して許さぬぞ」

 と。


 じゃが、その後、「お前は殺生石の前に立てるのか?」と吐き捨てた者が、突然倒れると言う事故が起こった。

 健康に被害が出ると言うような事もないし、ものの一分二分で目覚めたそうなのじゃが、SNSにはその報告が無数に現れた。


 その辺りからじゃろう? 妾を神として崇める人が出てきたのは。

 妾はただただ、人々の幸福を願っていたいだけなのに。


 妾と他の人との関係が難しくなる。

 美鶴にせよ美彩にせよ、或いは菜瑠美ちゃんにせよ、近くの親しい人は仲良くしてくれる。

 じゃが、ある程度の範囲の外側の者は、畏れ多いと離れて行く。


 ついでにテレビの散歩コーナーも番組改変で終了してしまう。


 神社はまた少し淋しくなった。

 流石にこれには応えた。

 美鶴や菜瑠美ちゃんは申し訳なさそうにしている。

「悪いのは妾じゃ。気にする事はない」


 スタジオは建ったが、元の想定通りには使えない。

 遊ばせておくのも悪いので、私の配信で使うようにしていた。

 機材も良くなったので、音が良くなったと好評だった。


 歌は相変わらず褒めて貰える。

 それは悪くないだろう。

 ある時、美鶴のツテで一つ話を持ってきた。

 近所の市民小劇場でスケジュールに穴が出来たらしい。

 三百人程度のホールなので気負いしなくてもいいだろう。

 尤も、開催日二週間切った今、どれほど人が来るだろうか?


 施設を遊ばせておくのも悪いと、妾は即断即決した。

 市の職員にもいろいろよくして貰っているのだし。


 どうせ集まらないだろうと思っていたらチケットは完売だ。

 スマホで申し込みとチェックをするタイプのチケットだけだったのに、結構老人の応募も多い。


 当日になって色々話を聞くと、どうも妾の歌が身体にいいと言う噂があるらしい。

 そう言えば、神社の隣のおばあちゃんもそんなことを言っていた。

 孫に連れられてきたおじいちゃんや、必死になってスマホの使い方を覚えてきた人もいる。

 こんなに期待されているならば、心を込めて歌わなければなるまい。


 妾の歌はいつも即興じゃ。

 特に練習すると言う事もない。

 何故なら歌う度に歌が変わるからじゃ。意識して歌を選ぶことも出来ぬし、リクエストして貰っても応えられぬ。

 じゃが、その時で一番適した歌が喉の奥から響いてくるのじゃ。

 そうして一曲、また一曲と歌っていく。

 二時間という時間の中で、なるべく楽しんで貰おうと必死で歌う。


 何の練習もしない人間が二時間歌い続ければ、声も枯れるじゃろう。

 じゃが、妾はそんなことも起こらず、延々と歌っていられた。

 少しトークを入れつつも、求められる限り歌い続けた。


 感動の嵐とは行かないが、多くの人は涙を流し、そして妾に感謝して会場を去って行った。

 感謝すべきは妾の方なのに。


 それから余計に、健康に良いと言う噂が広まっていく。

 妾のコンサートに行った人々の健康が明確に改善していたのだと言う。

 痛いところの痛みが和らいだとか、血液検査の数値が良くなったとか、血圧が正常値になったとか。


 勿論、妾はそう言う非科学的なことを信じたくなかった。

 耳も尻尾もあるような小娘が――それも一度死んだ男が生き返っているということが、全く非科学的なのは分かっておる。

 じゃが、ここで妾がそんな奇跡の力を持っておるともなれば、もはや止まるところを知らないのではないか? と言う恐怖がある。


 そういう訳で、妾は健康のことに触れることは一切しない。

 しかし、何かに付けて噂とは尾ひれが付くものじゃ。

 ある研究者が、妾の歌を調べたいと申したのじゃ。


 菜瑠美ちゃんは「どうせスタジオもあるし」と安請け合いしようとする。

 妾はこれで噂が収るならそれでもよかろうと引き受けた。


 録音機器やさまざまな計測機器を持ってきていた。

 そして、被験者になる五人ほどのボランティアの学生を前に歌うことになった。

 ボランティアには血液検査や心電図などの検査を受けていて、それが歌を聴いてどうなったか? を調べるのじゃと言う。


 結論から言えば、特別な効果は見つからなかった。

 皆、首を捻る。

 じゃが、一つだけ確かなのは、あの場にいた多くの者が心を動かされたし、今までがそうであったように涙を流す者もいたのじゃ。


 とは言え、世間は科学的である事が全てではないと考える人間の方が多い。

 それが正しいかどうかは兎も角として、己に都合のよいと考えた解釈と隠し得ぬ真実であれば、前者を選ぶ人間は多い。

 都合のよいとは、己がこの世界を如何に認識しているか、その整合性の上での都合の良さじゃ。

 自分が特別に優れた人間と思っているのであれば、自分を惨めに思わせる事実を遠ざけるじゃろう。自分は一方的に社会から苦しめられている人間と思い込めば、己の至らなさを無視できるじゃろう。

 そして、自分が幸福だと思うのであれば、どのような境遇にも立ち向かえよう。


 その場合に於いて、妾の歌は"都合のよい"側の存在じゃった。

 歌声を聞かせてくれ、生の歌声を聞かせてくれと言う声は高まる。


 人間、健康と命は金を積んでも手に入れたいものじゃから。

 それを実感できないのは、己の健康の大切さを知らぬ若者だけじゃろう。

 それ故、健康を謳えば人を簡単に騙すことが出来る。身体への害を謳えば誰彼構わず社会の敵と言い張れる。

 そのようなことをする人間を、一般的に人間のクズと呼ぶのじゃが。


 そう、妾はその人間のクズの最前線に立たされた。

 妾は必死で、妾はそんな特別な存在じゃないのじゃと説く。

 じゃが、それは聴き入られない。


 本人の言葉ほど確実な情報はないのに、それが不都合である故に信じない。

 人間とはそのようなものじゃ。


 ある瞬間、口を突いて出そうになった歌がある。

 その時、妾は妾の心の奥底にある危険な、そして邪悪なものを感じ取ってしまった。


 そして妾は配信を止めた。

 今まで十分な稼ぎがあるのじゃから、暫く静かにしておれるじゃろう。


 それを一番残念そうにしていたのは、実のところ美彩じゃった。

 美鶴は何かを察し、「それがよいでしょう」と言ってくれた。

 菜瑠美ちゃんも笑って認めてくれた。


 妾は三人のためだけに歌うこととした。

 そう。三人は特別じゃから。

 今後、幾ら年月が経てば妾が人々の記憶から消えるのか分からぬ。

 じゃが、三人はその後でも妾と一緒にいて欲しい。

 今日も歌う。

 妾と三人の未来の為に。

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