2023年10月23日月曜日

【全年齢版】潜入魔族TS

  魔王軍のイケメン魔族が、勇者を倒す為に幼女に扮するが……



 三百年続いた魔族と人間の戦争は、最終的に魔王と人間の諸王との和睦で終わり、それから更に三百年、世界は天下泰平を謳歌していた。


 尤もそれにはそれなりの犠牲と苦労が付き纏う。

 魔族側にも、人間側にも不和を求め、諍いを求め、最後は戦争に持っていきたい連中がいる。

 そう言う連中は、事が起きれば自分こそが活躍でき、英雄として名を上げる事が出来るのだと信じているのだ。

 尤も、そうでもないと自意識を保てない魔族や人間は、自分の社会で上手く行けない落ちこぼれだ。

 この世界には、そういう連中を取り締まる必要がある。


 俺はかつて魔王軍の幹部として人間を多く殺してきたが、己に恥じるような戦いをした覚えはない。

 少なくとも人間にさえ一定の理解があったようだ。魔族、人間双方の戦争犯罪を問う審問にて、俺がしたことで科を受けることはなかった。

 そういう事情で俺は魔族と人間との不和を狙う犯罪、憎悪罪を取り締まる立場となった。


 さて、人間の世界には大体百年に一度勇者が現れる。

 お題目的には人間を正しい道へと導く存在だが、実態としては魔族特攻属性だけを指す。

 お題目を大事にするのは、その勇者の属性が危険であり、それ故に今のバランスを壊しかねないからである。

 勇者が魔族を殺し、それが正義だと語れば人間は誰もがそれを信じてしまう。


 そもそも三百年前の戦争は、人間の勇者が三人とも無茶苦茶をやったから発生したことだ。

 魔族を倒し、その代わりに魔族領の一部を支配して好き放題やるということが続き、それ故に魔族は人間と戦う必要があった。

 勿論、それは魔族側の言い分だと言う側面はあるが、真実、あの戦争時代に出会った勇者でろくな奴はいなかった。


 勇者の悪行は人間の間でも嫌悪する人間がいて、そういう人間が勇者を倒し、そして、休戦時代がやってくると言うことを繰り返していた。

 勇者の一件で禍根を残した両者は、小競り合いをしながら戦間期を過ごす。そして再び勇者が現れて均衡が崩れる。


 三百年の戦争終結は、戦争が始まって三人目の勇者を、魔族と人間の一行が倒したところで潮目が変わった。

 人間の”勇士”が魔族と手を携えて生きていこうと宣言し、またそれに合わせて彼らに協力的な王族が続く。それから十年間を掛けて和平案を制定、そして少しずつ柔和政策を策定していき、今の世界がある。


 勇者はそういう意味で危険な存在だ。

 しかし、勇者の特性と言うのはわりかし危険なものだ。

 五歳頃に漠然と勇者である自覚が芽生えるのだが……それが国中見渡すと年に十人ぐらい出てくる。

 連合諸国は、その勇者をかき集めて「真の勇者になるための訓練」を施す。

 表向き、武術を学ばせるのだが、一番の肝は魔族と諍いを起こさないということである。


 勇者の自覚を持つ中で、実際の魔族特攻を持つ人間は百年に一人ばかり。

 逆を言えば、「俺は勇者の自覚がある」といえば、ある程度の教育と社会的地位が手に入る。

 それ故、なんの覚悟も自覚もない子供が山ほど送られるのだ。


 魔族特攻の判断は十七歳前後で判明するので、それまでは学校で色々と教える必要がある。

 そこで学んだ”勇者候補”が故郷に戻ると、大抵碌なことをしない。

 教育のお陰で魔族を憎悪することはないが、特権意識が芽生える人間が多いのだ。


 勇者候補の中で、優秀で性格のいい人間は、そういうゴロツキの監督を担うことになるのだが、全体として少数派だ。


 その通常任務に一つの問題が生じた。

 三年前、戦争後の”新世代勇者”の三人目が判明したのだ。

 こういう時は、今までの二人のように、よく目にかけて、聖都の鎮守につけて、一生飼い殺しと言うコースを取る筈だった。

 だが二年前、その勇者が行方をくらました。


 様々な調査を行った末、魔族領の街を転々としているらしい。

 何かが起こってからではかなりマズイ。

 早くなんとかしなければならない。


 しかし、流石に勇者が誰かの手に掛かって死んだともなればそれは大事だ。しかも聖都の鎮守を受け持っていたともなれば、スキャンダルでは済まない。


 そういう理由で、人間側の工作員が彼にハニトラや金儲けの話とか、彼を懐柔しようと試みた。

 しかし尽く失敗した。

 彼は児童性愛者らしい。


 金を払って貧しい家の子供を買っているのが判明している。

 必ず人間の幼い子供を相手にしている。

 街で評判が広まり、居場所がなくなると違う街へと旅立つのだ。


 何度か暗殺を試みたが、用心深い男だ。

 子供を買う時以外は、大抵人目につくところにいるし、単独行動を避けている。

 "行為"の時は大きな宿に泊る。

 手には勇者の剣だ。誰も何も言えない。


 二つ前の街で工作員が出来た唯一の成果――しかし重大な成果は勇者の剣の奪取だ。

 男は自分の事を"勇者"と名乗ることが出来なくなったのだ。


 ただ、そこまでした所で、男の用心深さは変わらない。

 男の警戒を解くにはやはり女が必要だった。

 しかし、流石に子供の工作員はいない。

 そこで俺の出番となった。

 勇者の好む容姿へと変身し、彼への懐柔を試みる。

 自分が工作員とバレれば確実に自分の命はない。

 しかし、そのような危険な任務を、部下に命じるのも気が引けた。

 魔族として長く生きてきて、魔族を愛する心はあるし、人間に対する感情も昔よりもずっと良くなっている。

 ここで部下が殺されて、その感情が揺れ動くのは、俺としても気分の良いものではない。


 調べ上げられた彼の好みは、小柄で細身、色白。栗毛の長い髪、目の大きな碧眼。それでいていささか勝ち気な雰囲気を持つ子供らしい。

 面倒くさいなと思いつつ、人間向けの物語などを読み込み、キャラクター作りをした。


「※※様、流石です」

 側近が褒めてくれる。

「この姿でその名前はよせ。私の名前はミラだ」


 側近は人間の子供の扱いに戸惑っている。

 俺は男だし、何なら容姿も良い方だ。

 人間の女にウケのいい顔といえば良いだろうか。

 何も知らない使いが、「かわいー」と喜んでいるから、きちんと化けているといえばそうなのかも知れない。


「皆の者、一つだけ約束してほしい。

 仮に私が斃されても、悪いのは犯人であり、人間ではない。

 ゆめゆめ人間を恨むなよ」

 自分でも難しそうなことを部下に告げるとは、俺も上司失格だな。


 グズグズしていられない。

 目的の街への馬車に乗る。

 転移では魔法探知に引っかかるかもしれないからだ。

 この姿で魔法を使わぬ限り、私が魔族であることすら分からないだろう。逆を言えば、彼の魔族探知の利く範囲で変身を解く事もできないのだが。


 馬車は途中の町で、人間の母親役をしてくれる工作員を拾う。

 マリヤと言う彼女は私の前でかしずく。

「身を挺してでも貴方様を守るます故」

「そう畏まるな。今から私とお主は親子だ。ゆくぞ……ママ」

「そうね。ミラ」


 気恥ずかしいだなんて言ってられないが、マリヤと話しながら設定の確認をやる。

 前の街で父親が罪人になったので、この街に流れ着いたと言う設定だ。

 マリヤは奴が通っている酒場で働くことになる。

 私はそこにちょこちょこ顔を出して、奴に印象をつける事にした。


 奴は今、アストルと名乗っている。

 アストルは冒険者ギルドに立ち寄り、盗賊の討伐や魔物の討伐で金を稼いでいる。

 魔族特攻は魔物にも効くし、こんな地域だから盗賊団に魔族が混ざっている割合も多い。

 奴は金回りのいい冒険者として、街に戻れば酒を飲み、子供を買っている。


 過去には冒険者として入った工作員とパーティを組み、暗殺するという手も考えた。だが、奴は何かと一緒に組むメンツ選びは慎重だ。

「新入り同士で組むのはギルドの心象悪いぜ」

「何処の馬の骨とも知らねぇ俺なんかと組みたがるだなんて、お前、何考えてる?」

 そう言って工作員と組むことはない。


 私はママへのことづけや、迎えに行くところで、奴に姿を曝す。

 工作員が私にちょっかいを出すのを、少しキツい言葉で言い返す。そんな小芝居を見せていると、ヤツが熱視線を送って来るのが分かった。

 マリヤ曰く、よく"娘"の話を聞きたがるそうだ。


 マリヤが店に慣れたところで作戦スタートだ。

 工作員の一人にアストルはその一人にこんな話を持ちかけた。


 俺の近くに陣取って、エールを持って通りかかるマリヤのケツを揉んでくれと。

 卑怯な人間の考えることだ。

 しかし十分に利用させてもらおう。


 作戦が実行されると、マリヤはアストルに酒を引っ掛けた。

 別の工作員がそれを盛大に笑い、ケツを揉んだ工作員は姿を消す。

 アストルは激高し、マリヤを叱責する。

 マリヤは縋り付くように慈悲を乞うのだが、奴は決して許さない。

 そこに私が顔を出すのだ。


 奴は私のことを人質と言った。

 賠償金にとんでもない金額を吹っ掛け、全額返済するまで返さないと言ったのだ。


 それから私は奴の定宿に私を連れ込んだ。

 あぁ、この身体で私は襲われるのか……漠然としていた。

 分かっているし、覚悟もしていたが、眼の前の大男には恐怖しかなかった。


 詳細は省くが、全く酷い夜だった。

 想像以上に肉体と精神に対するダメージがある。

 私が放心してたのは、演技以上のものがあった。

 地獄のような日々の始まりだ。


 日中はギルドに預けられた。

 事情を知って優しくしてくれる人もいるが、何だかんだであの男はこの街にとって便利な男だし、対人戦でも強い男だ。

 トラブルを避けようとするなら、言いつけを守るしかない。


 マリヤは憔悴した様子でアストルに懇願するが足蹴にされる。

 マリヤは八方手を尽くすように動くはずだ。


 私は奴の前では反抗的で、しかし窶れた少女を演じる。

 そんな私の目を「その目を見るとゾクゾクする」と下品な声で笑うのだった。


 いつも酒を飲んで帰ってきて、その穢らわしい行為の付き合いをさせる。


 酷い暴行の時には、いつも愚痴と暴言だ。

 生まれのことや"学校"のこと、そして鎮守としての退屈な生活。

 自分はもっと大きな事が出来る筈だ、もっと立派になれる筈だ。一国一城の主として歴史に名を残すべき存在だと言う。


 私は疲弊した姿を見せつつ、厳しい目を向け、その言葉に耳を傾ける。

 そこで反抗的なことを言えばぶん殴られた。

 だが、奴はぶん殴る理由の為に回答を求めた。

「言ってみろよ、お前が王になるだなんて無理だとな! どいつもこいつもそう思っているんだろう! クソ! どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!」

 そこでいつもの目つきを投げかければ、「ふざけやがって!」と殴ってくる。


 ダメージ軽減魔法がないので、この身体に込められるだけ込めた特性だけで耐えるしかない。

 恐らく、同じぐらいの人間の少女ならば、敗血症だの破傷風だので死んでいるだろう。

 外傷はなるべくそのままにした。

 その方が哀れに見えるから。

 擦り傷や痣だらけ、脅しのために少しだけナイフを立てた切り傷。満身創痍だ。

 男はそんな哀れな少女を陵辱するのに喜びを感じていた。


 ある時、男は「なぁ、異世界ってあると思うか?」と尋ねた。

 私は「知らない……そんなところはあるの?」と尋ねた。


 研究者によると、どうやらそう言う世界があるらしいと言う調査があった。

 誰ともなく伝わる話として、生まれる前の記憶を持つ者がいるらしい。

 どれもこれも伝聞なので、はっきりした調査は出来ない。仮にそんな記憶を持つなどと人に言えば、幻術に狂わされたか、もっと現実的に頭が狂ったと見られるだろう。

 だから全くそんな話は与太話に近かった。

 だが男ははっきりと"異世界"について語った。


 男が言うには自分は前の世界では随分と頭のキレる男だったらしい。

 だが、世の中の具合とか親とか周囲の人間に恵まれず、自分の才能が埋没したのだという。

 私は「そこではどんな仕事をしていたの?」と尋ねると、男は何も言わずに殴り、そして執拗に腹を蹴っていった。

 流石に死にそうになりながらも、男の言葉を聞き取る。

「どうして! どうして俺の邪魔をする奴ばかりなんだ! 俺をゴミみたいに扱いやがって! 俺はゴミなのか! おい、答えろ!」


 男と私の日課は朝は宿の用意したパンを少し食い、その足でギルドに預けられる。ギルドで仕事があれば男はそのまま仕事に行く。

 一日で終わる仕事ならばそのまま帰ってくるし、そうでなければギルドで預けられる。

 仕事から帰って来たら、男は酒場で酒を飲み、私には決まってパンと豆のスープを食わせた。あまり量はない。いつも空腹だ。


 宿に戻ると、暴力、そして暴力だ。

 男が寝ている間に床で眠り、そして男が起きると私は殴られる。


 ギルドでは一室に閉じ込められるばかりだった。

 誰も構ってくれる人はいない――のだが、工作員は一人二人懐柔する事が出来た。

 私に情報をくれるし、私も情報を伝えていく。


 尤も、ギルドマスターは私が表に出ることをよしとしていない。

 今日もマリヤは来ている。

 悲痛な叫び声が聞こえる。

 流石にここまでして誰もその愛情を疑わないだろう。


 私の姿、マリヤの姿を見て、徐々に嫌な噂が広まっていく。

 そしてそこに騎士団が巡察にやって来る。

 ちょうどアストルが出掛けた後だ。

 街の領主は丁寧に対応し、商業ギルドや職人ギルドを視察する。

 その中の一組が冒険者ギルドへと顔を出す。

 彼等は私の閉じ込められている部屋は分かっている。

 ギルドマスターがあれこれ誤魔化そうとしているところで私は「助けて!」と泣き叫ぶ。


 "心優しい騎士様"に私は救出される。

 マリヤもすぐに呼び出されて感動の再会だ。

 公衆の面前でこれをやられれば騎士の株も上がるし、アストルと言う男の悪行も知れる。


 私とマリヤは騎士団に事情を聞かれる――と言うテイで領主の屋敷に連行される。

 そして街にはこう告知される。

「マリヤとミラの哀れな親子は、騎士に保護されて聖都へと向かう。

 しかし、騎士の巡察は暫く続く故、冒険者を二人雇った」

 と。


 アストルはその話を聞いてすぐに追いかけるだろう。

 哀れな親子二人と、自分より格下の冒険者が二人なら恐らく自分一人で倒せるだろうと。


 私を引き連れた冒険者は"駆けだし"と偽装して登録した工作員だ。

 ファイヤーボール三回分程度の魔力の魔術師と、もう一人の戦士は三匹のゴブリンとの遭遇戦に辛くも勝利する程度の実力――そんな風に話をしている。

 実際、街では鼠退治だのドブさらいだのの雑用ばかり請けていた。


 二人は年若いが実力は折り紙付きの衛士だ。アストルに引けを取らないだろう。マリヤは実は僧侶故、バフデバフはなんでもござれだ。

 そして隠れるように二人の騎士が監視しているのだから対策は万全だ。

 そこに私が正体を現せば男に勝てる見込みはないだろう。


 男は街で自分の事を勇者だったとは言っていない。ならばその先について知りたがる奴なんているだろうか?

 少なくとも街の中で男は、児童性愛者で加虐趣味の狂った男だ。

 その男が哀れな親子二人を追いかけ、そしてその二人がどうなったか知らなくても、仮に男がミラを連れて何処かへ姿をくらましても、誰も何も言わない。


 男は街で二人の冒険者を雇った――その二人のうち一人は工作員だ。

 もう一人はどうすべきだろうか?


 我々は追跡しやすいように痕跡を残しながら街道を進んだ。

 女子供を引き連れた一行を、冒険者の男三人の足が追いかければ、すぐに掴まるだろう。

 翌日の昼、迂回した男と冒険者に挟撃された。


「よぉ、そこのガキを俺に返したら命ぐらいは取らねえでいてやるよ」

 男の声は、その口臭を体現するようだった。

「断ると言えば?」

 戦士の男が答えると、「ならば死ね!」とアストルは剣を振るった。

 マリヤのスロウはアストルの動きを鈍らせた。たった数秒間の暗唱だ。

 戦士は男の剣を薙ぎ払う。

 もう一人の冒険者は魔術師のフリーズによって固められる。


「済まないが、死んで貰うよ」

 戦士の素早い剣さばきは、アストルの喉笛を掻き切り、そして「あっけないものだな」と言って、トドメを刺された。


 私の出番はなかった。

 通行人は他にいない。

 騎士の二人が襲撃を予知して通行止めにしているからだ。

 ほぼ完璧に誰もこのことを知らない。


「さて、困ったな」

 四人の工作員に一人の冒険者が詰められる。

「お……俺はあいつに借金があっただけだ! 本当だ! 信じてくれ!」

 工作員は、男にあの街に戻らず、別の街でも今日のことを喋らなければ、何もなかった事にしてやると伝えた。

「もし、一つでも約束を違えたら……バカを見るぞ」


 冒険者の男は腰を抜かしながらもその場から逃げ去った。

 工作員の一人が密かに追跡して暫く同行を見るだろう。


 それにしてもアストルだ。

 このまま下手な人間に見つかっては困る。

 灰になるまで燃やすしかなかった。


 正直な話をするならば、魔族として魔族特攻の能力の研究をしたい思いはある。

 だが、我々がそれをしないからこそ人間は我々を信じてくれる。


 青く燃える炎が、男を包み込み、皮膚を脂肪を肉を、そして骨を燃やし、灰にしていく。

「所詮、人間も魔族も燃えればこんなものか」

 私が笑う。

「正直、気分のいい話ではありませんね」

 マリヤが"工作員の顔"をしている。

 そして振り返り満面の笑みを零す。

「一瞬だけ、母親の顔をしていいですか?」

「う……うん……ママ……」


 きつく抱きしめて彼女は言う。

「実は……私の娘は"勇者"に殺されたんですよ」

 その子供が魔族に殺されてなかったのは良かった。

 冷静にそう考えてしまう自分を不謹慎だと思った。


 マリヤは「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。

「魔族にも悪い奴はいる。今回はたまたま人間だっただけだ。

 魔族に同じような者がいれば、我々は全力で人間に協力をする。

 絶対にだ」


 通行止めしていた騎士が合流して言う。

「ご協力ありがとうございます。人間世界のゴミを一つ片付けられました」

 ゴミか……


 魔族領に戻って側近に話をする。

「異世界があるとしたらどんなところだろうな?」

 博識なその女は答えた。

「魔法はないし、魔族もいないそうですよ。勇者もいないし、魔術師も戦士もいないって話を聞いたことがあります。

 信じられませんね」

「そうか、それは良いところだろうよ」

 俺が笑うと、彼女は笑う。

「でも、異世界の話はいつも苦しい世界だって言うんですよ。

 自分の力を見せる事が出来ない世界。誰も評価してくれない世界だって」


 俺はアストルのことを思い出す。

 あの男は曲がりなりにも勇者として選ばれた男だろう。

 何が不満だったのだろう?

「どーせそんなもの与太だよ。

 異世界があったとしても、この世界と同じだよ。

 自分が求められる事と、それに応える事しかない。それが不満だって奴がいつだって跳ね返る。

 跳ね返った先がいつも幸福とは限らない。

 魔族とて人間とて、そして勇者であろうがな」


 俺が淡々と語ると、側近の女は呟くように言う。

「でも……でも、私、少しだけ気持ちが分かります。

 もし、私が人間として生まれて、何処かの村娘だったとしたらどうだっただろう? って思うんですよ」

「村娘だって色々いるだろう」

「でも、夢ぐらいは見たいじゃないですか。

 もし別の世界があって、そこで新しい人生を選べるんだとしたら」

 何か思い詰めているようにも見えた。

「今の生活に不満か?」

「全然! ただ、面白そうってだけですよ!」

 彼女は明るい笑顔で答えた。

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