参謀の執務室、部屋には例のショタ少将と参謀とが向かい合い、私は視線を外して立っていた。
「正面を向くと、理性を押さえられる自信がないそうだ」
参謀が私のことをせせら笑う。
私は、明後日の方向を向いたまま、合田少将との打ち合わせに挑む。
「合田少将が直々にお出ましになったと言う事は、そろそろ本気を出すと言う事だな?」
大井大佐の表情を伺い知ることは出来なかったが、訳を知っていそうな口調であった。
「僕は賛成ではないんですけどね。仕方ありませんよ。組織の人間なんですから」
ショタっ子ながら、実に自信のある堂々としたしゃべり口。目を合わせてしまいそうになる。
「それで――我々が、如何にして今日まで根茎を張り巡らせていられたかを知りたいと?」
参謀が、微かに苛立ちの色を見せつつ問い返せば、彼は余裕たっぷりに答える。
「艦娘ですよね? あんなに美しい信号を送れる人間は、滅多にいるものじゃありませんよ」
やはり見破られていた。私は、常日頃から、電文を送るときは、適当にして送れと口を酸っぱくしていたのだが、艦娘自身に、人間らしい適当さなど求めて得られるはずもなかった。
「大和田通信所を使えるようにした。これから、数人を交代でお借りしたい」
堅苦しい口調と、口語の柔らかな抑揚とを代わりばんこに使って、私の心を揺さぶる。
「勿論、待遇に関しては、悪い様にいたしませんよ。そこの美しい中佐も、気になるようでしたら、同行を許可しましょう」
我々がとやかく言うよりも先に、べらべらと喋ってしまう人間が、果たして本当に、中野学校の校長なのだろうか? 私が、空中に向かって一人、思考を巡らしていたその時、ドアがノックされる。
「あきつ丸です」
何処か、陸軍らしい堅苦しい口調の女が声を掛ける。
参謀が答える間もなく、少将は「入れ」と返事をする。
「艦娘ですか!?」
私は、私の横を通り過ぎる少女を目にし、立ち上がる。
「そんな情報を僕の耳に入れたからって、何がどうなるものでもないでしょう」
僕は、青い海を望みながら、八木に悪態を吐いた――参謀も明石も軟禁状態にあると聞いて、僕が助けに行けるとでも思っているのだろうか?
「そう投げやりになるなよ。これもバーターだよ。
どいつもこいつも、秘密の活動と言いながら馴れ合ってやがる。
せめて、小説読むぐらいの気持ちで笑ってやれば良いさ」
八木は、何だかんだで、様々な研究開発が進み、その"不必要な交換"のお陰で、色んな良いモノを手に入れている。
差し出す情報は、陸軍も周辺各国も欲しがっている艦娘の事だ。今までは、どうせ知ったところで、何に使える訳でもない情報だった。
「本国にいたら、憲兵にしょっ引かれますよ」
「そうだなぁ、陸軍にも艦娘がいたんだ、海外にもいるかも知れないからな」
分かっているのか、いないのか、飄々としていやがる。明石は、八木の先輩であり、彼の脂質――資質を高く評価している。「あまり気を許すなよ」と。
八木は、ここに来た時から一貫として、陸軍に技術を奪われるなら、国も捨てると強気であるが、そればかりが本当の動機とはどうしても思えない。
何が馴れ合いだ。
僕も八木も、このラピュータに軟禁状態だ。特に僕など、書類に追い立てられる以外は、やる事も少ない。
グエンの部下どもが、作戦を遂行させてくれないからだ。
決まった航路、決まった編成である限り、"お使い"は僕がいなくても粛々と進められる。
近頃の日本も同じ様な状況だ。
「提督が陸でくすぶっているとは、何の為にここにいるのか分からないものだな」
八木と別れると、長門と陸奥の二人に合流した。戦艦は、燃費の問題から出撃が控えられるからだ。
「私は、提督が必要だから助けたまでだ。
こんな時期も長くは続くものか」
「弱音ばかり吐いてるようだと、女の子にモテないわよ」
そんな風に、二人に励まされながら、自分の無力さを痛感する。
力が欲しい。明石も八木も、大井参謀も陸軍の連中も、自分たちでネットワークを持っているクセしやがって!
と、心に滾るものを感じた時、二人の戦艦は、僕に耳打ちをする。
「おい! それは本当か!?」
「将校殿、声が大きいであります」
陸軍の兵士が跋扈する鎮守府では、あまり迂闊な反応も出来ないが、それを差し引いても、あきつ丸に告げられた内容は、あまりにも酷かった。陸軍によるクーデター計画である。
「陸軍も海軍も、誰が敵か分かりませんからな」
その点、艦娘は内緒話をするには好都合だった。そんな事情もあって、あきつ丸は連絡役を申しつけられた訳なのだ。
あれから一週間も経つが、陸軍は鎮守府から引く様子もなく、国会は反発を強めている。
内閣は、相変わらずの事なかれ主義で、漸く陸軍相の参考人招致を決めたぐらいだ。どうせ、何も決まらないし、変わりもしまい。
それにしても、仮に合田少将が言うように、陸軍がクーデターを実行したら、真っ先に殺されるのは、情報を握って自由に動ける彼自身だ。険呑な連中からすれば、中野学校の独立性が邪魔に見えるに違いない。
無線傍受の件は、陸軍に対する海軍――と言うか、大井参謀の心象をよくする為と、艦娘を自由に自分の所へ呼び寄せる口実、そして、そうした艦娘を人質にする為でもある。
陸軍によるクーデター待望論は、随分前から存在していたが、大きく分けても五つもある派閥間の諍いが、事態の悪化を防いでいた。
そこに来て、参謀と私の仕組んだ毒薬が状況を変えた。
あきつ丸が教えてくれる所によると、私達の暗躍は、合田自身でさえも、かなり終盤にならないと気付かなかったらしいから、我々の意思を見抜いていた連中は、陸軍にも内務省や外務省にもいなかっただろうと言う事だ。
むしろ、それ故に、合田少将は急いで鎮守府を押さえなければなかったのだ。
ここで、責任転嫁をするつもりはないが、合田が我々を止めるために打った手は、はっきり言って悪手であった。
陸軍が鎮守府に踏み込んでからこっち、過激派は海軍省に乗り込み、陸軍主導で統合軍を作り上げてしまおうと言う意志を強めている。
また、与党は愚か、閣僚からも強く反発する議員は少なからずいるから、それに対する苛立ちはかなりのものだ。鎮守府に缶詰にされても、分かるくらいなのだから。
勿論、合田とて、好きで強硬手段に出たわけではない。
参謀本部直轄とは言え、軍学校の校長が好きに動かしていい部隊など存在しない。
汚職捜査という茶番を仕組み、我々の"安全装置"を作動させたのは、苦肉の策というわけだ。
結論から言えば、合田が手を出そうと、我々が好き放題にやっていようと、陸軍はクーデターを計画し、実行するだろう未来は確実に訪れる。
大井参謀が言うには、「小さな餌を咥えさせておけば、暫くは時間も稼げるだろう。走るなら、みんなが動揺している時に限る」と言うから、今、必死で手を伸ばしている所だ。
当然、合田の言い分を全て飲み込む訳にはいかないが、手足が縛られている状況では、それを前提にして動く以外、我々には道がない。
否、あれば、参謀、ちはやを連れ立って、艦隊と一緒に南方へ逃げ延びるだけだ。
しかし、グエンとの縁があったとしても、一国の長として前進しつつある彼が、全くの好意で匿ってくれるだろうか?
一度滑り出した状況は、坂道を転げ落ちるように悪化する。
私達が今まで頑張って来た事は、一切の歯止めにはならない。
内務省と言う敵で――それが脆いことも分かっているが――一致団結したものは、我々の工作で破壊できる代物ではなかった。我々は、少なくとも内務省と陸軍が良い具合にいがみ合ってくれる事を狙っていただけに、その切り崩しを短期間に行うのは不可能だと言って良い。状況は、我々の手よりもずっと早いからだ。
もう、国内で打てる手はないとみた我々は、海外にその力を求めた――と言っても、外患誘致ではない。島国である我が国に手を出せる国はないからだ。
しかし、海外でまで好きにさせておく訳にはいかない。
クーデターが始まれば、駐在武官が行動を開始するのは間違いない。陸軍の進出は、基本的に我が海軍が交易している範囲である。輸送した実績から、その勢力は自ずと分かる。現地で勢力を築き上げた協力者については、各国のスパイの方が詳しいだろう。
それぞれの港には、我が艦隊が護衛のために出入りしている。陸軍が内地から飛ばした通信を妨害し、偽の情報を送り出せば、彼らは望む通りの動きをしてくれるに違いない。
何と言っても、我が国公認スパイの元締めがこっちに付いているのだ、暗号でしくじる事は万に一つもない。
陸軍は、国内を掌握すれば、必ず海外に出る機会を覗い始めるに違いない。
その第一歩を挫くのは、決して無駄な努力ではないだろう。
時が来て、協力を求められれば、我々は拒否できないが、姑息戦略で何が悪い。
あちこちに出掛けた艦娘は、我が基地に戻ると同時に、僕にだけ様々な情報を伝えてくれる。
特に本土のあれこれだ。
死んだ珊瑚の混ざったコンクリートが、雨風にやられて、徐々に風景に馴染んでいく――僕も麦わら帽子を被って釣りに興じていれば、現地人のような風体に見えるだろう。
艦娘がリレー形式で伝えてくれる内容は、断片的ではあるが、エッセンスには富んでいた。これは、大井参謀と明石が助けを求めているに違いないのだ。
「なるべく明石を手伝ってくれないか?」
国難に臨んで、艦娘という謎の存在に身を委ねなければならないと言うと、実際酷い現実だが、今までそうして来たのだ、毒を食らわば皿まで、"きれいは汚い、汚いはきれい"だ!
僕の問いかけに、彼女たちは曇ることのない瞳で受け容れてくれる。
「提督は、今でも提督なんですから、そんな言い方じゃなくて、命令でいいんですよ?」
命令という命令が出せるものか、こんな馬鹿げた立ち位置にあって――自身の手で心をいたぶっていても、流石に彼女たちの好意を邪険に扱えない。それが僕の弱さで、より弱くならずに済むギリギリの水涯線なのだ。
いつか、自分でも行動を起こさなければならない。
それは、僕が艦娘に会う前からくすぶっていた感情である。あの日から、今日に至るまで、いつだって流されるままに過ごしている。
それでは、いつ何を起こすのか? 何だって良いわけじゃないだろう? 果たして、自分には出来るかな?
そんな逡巡が、行動への意思を削いでいく。否、意思なんてものは最初からなくて、その理由を次々に作り出していくだけなのだ。
どうしようか? グエンをぶん殴って、艦隊をまとめて、何処かに逃げるか?
今ある艦隊を維持するだけでも相当なものだ。整備する人員もいるし、そういうのをひっくるめると、行けるのはせいぜい日本ぐらいだ。太平洋は流石に横断できそうもないのだから。
大体、陸軍のクーデターが、今の世界に、どれぐらいのインパクトを与えるだろうか?
増長した陸軍が、大陸に領土を求めるだろう事は分かっている。だからこそ、明石や参謀は努力しているし、部分的にその作戦は成功するだろう。
その後どうなる? 僕と同じように、彼女たちも軟禁状態に置かれる。新しい航路はなく、新しい艦娘もなく、ただただ、毎日を消化するだけの日々?
そうじゃない、いつかグエンと日本が衝突する日が来るぞ。そうすると、艦娘同士の艦隊決戦が行われることになる。
「その頃になってからでも遅くないか」
姑息だ。問題の先送りだ。先送りにした問題は、必ず自分に逆襲するというのに。
かくしてクーデターは、当初の計画より一ヶ月ほど遅れて発動された。
陸軍は随分と力を削がれたし、内務省も発奮していたからだ。
そして、その結果は、失敗とは言えない失敗、或いは成功とは言えない成功と言った風情であった。
陸海の統合は、陸軍主導で行われ、海軍省は段階的に解体されることになった。内務省や外務省、司法省はその独立を守ったが、大蔵省と逓信省は事実上、陸軍の支配下に置かれた。農商務省や文部省は、陸軍の強い影響を受けつつ現状維持で収まった。
さて、在外公館や事実上の駐留地はどうなったかと言うと、全くの閑かな有様であった。
これは、当初の計画に沿って集結した陸軍配下の武装組織などが、地元勢力の警戒を煽った為――実際は合田や明石の差し金であるが――全ては計画倒れになってしまったのだ。
大陸の日系人は、幾つかのクラスターに分かれながらも、それぞれが何らかの繋がりを持っていた。この件、主に商売人がらみの評判は非常に悪かったから、こうした連中からしても、不幸中の幸いとして、事件は受け止められた。
オーストラリアもグエンの一派も、この件は静観だ。欧米本国へは、どう伝えられるだろう? 明石が集めた情報の限りでは、ニュースにもならないと言う事だ。
僕はと言えば、事件前後、見張りの兵士のしつこさが、多少増えたと言ったぐらいだ。
体力作りと、読書は日課だったが、墨が手に入るというので、書道も始めた――尤も、我流ではあるのだが。
どういう吹き回しかと、艦娘に訊ねられる。
「刑務所みたいなもんだからな」
僕の答えに、ある艦娘は大袈裟に笑い、別の艦娘はいつか助け出すと言ってくれた。
助けられてばかりでもいけないんだがなぁ……
そして、奴は環礁から姿を消した。
当然、グエンは艦娘の提督が消えたことを隠し通そうとした。だが、艦娘の口から伝えられたのに遅れて、陸軍は独自にその情報を掴んでいたし、遅かれ早かれ世界に知れ渡る事だろう。
どうやって消えただろうか? 環礁の外側に向けて、入水自殺したという可能性は否定できないが、その場合、艦娘が全力で探して、すぐに見つけ出すだろうと思う。
この点、彼女たちの表情を直接伺えないのが歯がゆい。
次に、誰かに誘拐された可能性だが、高速艇でぶっ飛ばす以外、基地に近付く事は出来ないわけで、そう何度もアタック出来る訳ではない。つまり、地形から彼の所在まで何も知らない状況で島にアプローチし、厳重な警備をかいくぐるなんて事が、実現可能だろうか?
最後の可能性は、彼が自らの意思で、艦娘の中に潜むなりして島を脱出した事だ。
しかし、これはあまりにも不合理が多すぎる。
今の所、艦娘に欠員はない。つまり、身一つで彼が異国に向かうことになる。手土産一つも持たずに密航してきた男を、その提督だと信じる馬鹿が何処にいるだろう?
否、いたとしても、どうやって接触する? 彼がその手の人脈を築くチャンスは殆ど無かった。何せ、誘拐と暗殺を恐れて、上陸を許可されなかった男だ。
彼が、インテリジェンスに長けている筈がないのだから、何か行動を起こしていれば、確実に網に引っかかるはずだ。
せめて、主計がらみの資料が手に入れば、彼が金を持って逃げたのかどうかも分かるのだけれど――彼が、会計上のテクニックを駆使できるほど、経験豊富だとも思えないのだが。
「それで、明石中佐は、大丈夫ですよね?」
合田少将の溢れんばかりの笑みは、私の理性に目の粗いヤスリを掛けていく。
「逃亡なんて、滅相もない!」
これは、軍人としての意見だと自らに言い聞かせながらも、彼の容姿を見た私自身が、私自身に命令したようにすら感じる。
少将は下品な高笑いなどするはずもないが、その背中は自信に満ちあふれている。
正面から見ると、我慢できないほどカワイイのに、後ろから見れば、我慢できないほどムカツク――と思い返せば、参謀も似たようなものか。
「あんな時代、そんなに長く続くとも思っていなかったけど」
彼は、何かを口走ろうとしたが、その直後口を噤み、誤魔化すことさえせずに立ち去った。
今の状況が、じゃぁ、誰のためになっているのか? を考えれば、あの愚痴の意味も分からないではない。
資源への渇望が解消されれば、国内がざわつく。
一方、背中がカワイイ参謀の方であるが、その権威では隠すことの出来ないほどの落ち込みを見せつけた。
「この儂が落ち込んでいる様に見えるか!?」
「そりゃぁもう」
私がキッパリ答えると、「そうか」と短い台詞を吐いて、席を立った。
「お前さんは、意地悪な事を言うなぁ」
私に見透かされたのに腹を立てたようだ、頬を膨らませて、いささか沈んだ気分を取り戻した。
この小さな参謀は、あの男がいなくなって、一層脆くなった。
あれは、軍や国が、あの男を"使い物"にさせるべく、教育係として参謀に白羽の矢が立ったのが始まりだとか聞く。
私の若い頃の参謀は、あくまでも海軍軍人らしく、精神注入棒を容赦なくブン回すタイプだったが、そのような影は、全然見えない。
否、ともに出世街道を進む間は、参謀も私も次第に丸くなっていったを知っている。だから、にわか仕込みの優しさだとは言わない。
それに、あんな風な教育が、あの臆病らしい気風の男に適しているとは思い難いわけだから、強いて優しく接していたのかもしれない。
箸を咥えて笑い話を聞くと、何もしない時よりも、笑いやすくなるなんて聞くが、昨今の参謀を見ていると、そんな因果に、自ら絡め取られたのではないか、とさえ思えてくる。
「でも、グエンはどうするんでしょうね? 我々みたく、ルートセールスやってるだけなら、提督ナシでもやれるとは思うんですけどね、たまにやる火力支援なんか、あの男なしでは何も出来ない訳で、東南アジアでまた、動きが活発になりますよ」
これに関して、参謀は「聞きたくもない話をするな」とでも言いたげに、顔をしかめて、視線を外した。
私が、ご丁寧に説明するまでもないと言う意味ではなく、「我々に何ができる?」と言う程度の事だろう。
「また、ここいらで発破を掛けないといけないのか」と、参謀を見つめながら考えていたが、どうにも上手く纏まらない。
「どいつもこいつも早まった真似をしたがる」
その言葉は、グエンや他の勢力を指すと同時に、私への警告のようなものだろう。
「少将にも言われましたよ。
内地にいると、役人根性ばかりがしっかり植えつけられる。
今の私は、変化を嫌うんですよ」
返答がてらに嫌味も込めてみたが、参謀の顔は、相変わらずすっきりしない。
「私も早まりたいよ」
「絶対にやめてください!」
そう言えば、私とあいつが最後に合流した時、参謀も密航したんだった。
と、くさくさした気持ちのまま、何も出来ない日々は続いていく。
提督失踪の報から数日経つと、陸軍はグエンの基地を奪おうと言う意志を強くした。
私も参謀も、散々警告したが、グエンは、東南アジアでの覇権を指向して、周囲の氏族を平定、今やオーストラリア、インド、そして、嘗ての清国――とそこに飛び込んだ日本と勢力の境界を接するようになった。
これは、太平洋での探検が上手く行かなかった結果から来ているのだから、責任の一端は提督にあるとも言えるが、全ては無茶な要求だったのだと思い知った。
そんな中、大陸での作戦の失敗に気分を害した陸軍上層部は、グエンの一派を配下において、一気に南方世界を手に入れようとしている。
「単純な連中だ」
確かに、作戦は単純だ、どうせ、基地の艦娘たちは、何もしないだろうし、我々を受け入れてくれる公算が高い。
基地での兵力を見れば、あきつ丸に乗せた兵士だけで占領も可能だろう。
だが、そんな事をすれば、南北両大陸での資源に目がくらむに違いない。
内務省も外務省も、今の体制では、歯止めにはならないだろう。
「このところの状況は、一層芳しくないですねぇ」
笑顔輝く少将が嘆息した。
ここの三者、「早まりたい」気持ちを共にしていた。
勿論、我々が艦娘を連れて、グエンのところに厄介になれば、我が国の暴走は止められるだろう。しかし、同時に国民は飢える。
そして、全艦娘を手に入れたと分かれば、今度はグエンが増長する可能性もある。
我々だけの力で、基地を手に入れる事なんて出来ないし、どうしようもない堂々巡りを思考実験するだけとなる。
陸軍の圧力は日増しに厳しくなってきて、参謀ののらりくらりとした、牛歩戦術は、日ごとに前線を後退させるのだった。
第一、時間が解決してくれる問題と言えば、陸軍の大陸での兵力ぐらいだ。こちらも余程酷い。
我々としては、せいぜい、我々に有利な範囲で、グエンを陣営に引き込む辺りで手を打ちたいのだが、工作は実らず、主戦派の発言力は衰えない。
グエンの方も、これに関して、いい顔をしていない。
近々何か起こりそうだ――と言う、予想は、あっけなく当たった。
先に仕掛けたのは、グエンの方であった。
と、言うのは形だけである。事実上ハメられたと言うのが正しい。
以前から、勢力争いの激しかった地域に、陸軍の連中が進出して、一瞬だけ、真空地帯が生まれる。その半分はグエンにくれてやるとばかりに、虚偽の情報を伝えたものだから、意気揚々と踏み込んだところで、帝国陸軍と衝突する事になった。
小競り合いで済んだのは、グエンの部下が優秀だったからだろう。
しかし、火種は残された。
日系人の保護の為と言う口実で、兵隊を送り込まないとは限らない。
海軍が、せっせと運んだ軍人や軍属が、その真価を発揮するときが来たのだ。
この段になると、グエンも流石に、外交努力を惜しむ事はなくなった。
しかし、もう、遅いのかもしれない。
海軍が動くと動かないとに関わらず、大陸での陸軍の行動は大胆になるだろう。そうなれば、なし崩し的に我々も、陸軍の"犯罪"の片棒を担がされる。そう、あの提督がグエンに指示されたようにだ。
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