2015年5月26日火曜日

ある中二病の死

 彼は、何処にでもいる平凡な中学生。

 おっと、そんな事を言って、何処かで異能に目覚めるとか、生まれに秘密があるとか、意味もなく美少女にモテるとか、そんな事を……


 主人公に何か書かせれば、そんな所から始めそうな、捻くれた、そして、同時にそう言う"何か"に憧れる少年である。

 しかし、ここで名状しておきたいのは、彼に台詞はない。

 言葉を発しない然るべき理由があるわけではない、とりわけストーリーに資するものがないからだ。


 さて、彼が平凡ではないのは、さるゲームの被害者と言うただ一点である。

 そのゲームは、決められた期日までに彼が生き残っていれば防御側の勝ち、死んでいれば、攻撃側の勝ちと言うゲームである。

 しかし、その内容は非常に高度でありながら、地味である。


 ルールその2は、彼がこのゲームの存在に気付いた場合、或いは死後、ゲームの存在を揺るがすミスをすれば、ゲームは両者の負けである。

 つまり、彼に目立つ護衛を付けることも、また、派手な攻撃方法を選ぶ事は不可能だと言う事だ。


 さる紛争国の被害者は、平凡な少年であったが、ある時期を境に過激派に目を付けられそうな思想に目覚めた事がある。

 Rh-の被害者が、"偶然"事故を起こした時、その場に"偶然"居合わせたRh-の季節労働者が輸血に同意したなんて話もある。

 尤も、彼らが本当に"被害者"だったのかどうかは、誰も知る由はない。




 ここで、このゲームに於ける今回の難点は二つある。

 一つは、この国が平和すぎるので、下手な手は打てない事だ。


 彼は毎日決まった時刻に家を出て、学校に行き、それなりに真面目に授業を受け、放課後は真っ直ぐ家に帰り、ネット上のいい加減な情報を選り好みしながら吸収する。そして、夜遅く母親に叱られた所で床に就く。

 学校と家は近く、休日外に出ることも少ない。

 母親のパートは、彼が学校に行っている間に終わるし、父親は常識的な時間に家に帰ってくる。

 兄弟はおらず、親子関係は概ね良好。

 今の所、妄想はネットの中だけなので、親が彼に心配するところは少ない。

 また、友達は少なく、交際も不活発と来ている。

 死から、かなりほど遠い存在だろう。


 尤も、銃器を使って殺さなくてはならないなんて決まりはない。制御不能の暴走車に轢かれるでも、白昼暴漢に襲われるでも、幾らでも理由は付けられる。

 それに、この国だって、不審死を事故や自殺として処理する事は難しくないだろう。




 そんな事よりも、ずっと困難なのは、彼が夢見がちな少年であると言う事だ。

 彼は、普段から、自分が世界的、歴史的な"何か"のキーマンと思い込んでいる節がある。

 だから、彼のSNSを見れば、実にみっともない妄想が書き連ねられている――直接手を下さなくても、十年後ぐらいにこれをばらまいてやれば、勝手に死んでくれそうなぐらいに。

 SNSに妄想をぶちまけるような中学生というのは、得てして孤独なものだ。否、孤独故に妄想の世界に逃げ込むのか。


 何にしても、こんな風だから、彼がゲームに気付いているのかどうかを判断することは出来ない。

 少なくとも、彼には残念なことに、殺害される理由は全くない。完全にランダムである。

 アフリカの難民キャンプの餓えた子供が"被害者"となる場合もあるし、マフィアの鉄砲玉要員が"被害者"となる可能性もあると同時に、彼のような実に面白みのない、殆ど価値のない人間にも、このような舞台が用意されるのだ。


 攻守共通する問題点とは、彼が「ゲームの存在に気付いた」とゲームマスターに判断されない殺し方、そして守り方を考えなくてはならないのだ。

 その機会が得られるまでは、何もしないことが唯一の負けない方法となるのだ。


 彼の妄想はいつ死ぬだろうか?

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