2016年7月30日土曜日

転生チート習作

 なんとなく思いついて、一気に書いた。執筆時間は丁度一時間。言わばワンドロみたいなものだ。

 推敲とかしてないので、色々と不味いところあるかも知れないけど、そんな感じの遊びと言う事で。





 それはとても無様で、お話にならない事故である。

 我が主人公は引きこもりで、それでもなけなしの問題意識から、夜中の街を徘徊するという、一般人からすると、何故、それが問題解決になるのかと疑問に思う行動により、命を落とした。


 主人公は、実際子供の頃から、人と上手くやれる人間ではなく、その上、親もそう言う事に関して、どうやって育てるべきなのか、真剣に取り組まなかった。

 だから、彼は三十を前にして、中学からの二十年近くを、文化住宅二階の一室で過ごした。

 勿論、その惨めな境遇は、彼自身にも分かっていたので、部屋を出る努力として、夜な夜な外を出歩くのだった。

 それが半年も続けば、不審者情報が広く共有されるようになる。

 彼がトラックに轢かれたのは、やんちゃっぽいお兄ちゃん――まぁ、普通の人だが――に声を掛けられて驚いたからである。運動不足の為に生きも絶え絶えに走っていたら、道路の真ん中に出ていたのだ。

 救急車は、そのお兄ちゃんが読んでくれたのだから、本当に失礼な話である。




 主人公は、意識を取り戻すと、いや、取り戻していないが、ある意識の中で、神なる存在に遭遇した。

 その神は、彼好みの小さな女の子で強気の口調の子である。尤も、彼にその容姿を事細かに描き出すほど、社会的知識の引き出しはないのだけど。

 兎に角、その神が言うには、「お前の境遇のまま死ぬのはあまりにも惨めなので、異世界に転生して、人生をやり直すとよい」と言うものである。

 問題は、彼をそのまま転生したところで、野垂れ死にがせいぜいであると言う事だ。

「剣術と魔法とサバイバル術、体力、あと傍系の能力を与えてやろう。これで、野宿で生き長らえながら、モンスターを倒し……おっと、ものの売り買い交渉する能力は必要だな。

 うーむ、単に魔王の城に行って魔王を殺して帰ってくる程度では、冒険も何もないな。

 ある程度、仲間を率いる必要があるだろう。人間的魅力というやつも必要だな。男女ともに好ましく思う容姿と体型、話の面白さと引き出し、頼りになる雰囲気もいる。大体、お前のそのどうしようもないネガティブさと、全てを人と社会の所為にするような人格も変えねばならぬ」

 そういう風に、一つ一つの点をチェックしながら、変えるべき項目を選ぶと、殆ど全ての部分――むしろ変えないで済むのは、人間であるという項目ぐらいしか残っていなかった。

「幸い、お前は本当に空っぽだから、何でも好きなように変えられるし、矛盾がなくて便利だな!

 頭のいい奴や身体を動かしたことのある奴は、きちんとした物理法則が頭にあるから、二段ジャンプとかを入れると破綻してしまうのだ。

 まぁ、よい。

 ここまで話していて、不満はあるか?」

 主人公は、神の口の悪さに不満があるが、折角の一発逆転のチャンスをフイにしたくなくて、必死で頭を横に振った。

「最後に一つだけ言う、ここまで変えてしまうと、もはや転生後はお前自身の人格などひとつも残ってないぞ。せいぜい、転生前に引きこもりであったと言う記憶がある程度だ。それでもいいな? 後悔はないな?」

 自分の記憶そのままに、冒険の旅に出て、美女に囲まれて、世界を救うなんて事が出来るなんて、最高じゃないか。愚かな主人公は、二つ返事で同意する。

「なお、私とのやり取りだけは記憶から削除しておくぞ。冒険に邪魔だし、下手に神に助けを求めるようでは、主人公として失格なのでな」

 彼は再び意識が遠のく。




 彼は、宿屋の二階で目覚めると絶望した。

 本当のRPG的世界ならば、冒険者の泊まる宿屋、否、そこにある世界全体は、随分と不潔でじめじめして、どうしようもない悪臭が立ちこめているものだが、彼の知識ベースにはそんなものがない。

 アニメに描かれる世界のように、全てが清潔で抗菌で整っている。美しくないモノは、倒すべき敵だけだと言う世界である。

 さて、それで何故、彼は絶望したのか?


 俺は冒険者だ。それなりの経験と知識があるはずだ。しかし、その記憶はかなり宙ぶらりんな上に、ずっとずっと惨めな夢を見ていたような、酷い記憶が頭の大部分を占めている。

 しかし、自分が、この三十手前にした人生の中で、何をやって生きていたかと言うのは、実に空虚で、何もない。本当に、夢に見ていた世界が――つまり薄暗い部屋で、明るく光る板状のものを見つめながら暮らしていたのが、本当の半生だったのではないか? と思える現実に突き当たる。


 妙な夢を見た挙げ句に虫になった奴の話もある。

 窓ガラスに身体を映して(彼の知識量的にはこの世界に窓ガラスがあっても矛盾に気付かないのだ)姿を確認すると、「大丈夫、俺は俺だ」と自信を強めた。

 しかし、実際にこの世界に記憶はない。

「おい、大丈夫か?」

 剣士の赤毛の女が不安そうに声を掛ける。

 少しずつ、記憶が再生するように、仲間を見渡していく。

 双子で魔道士でエルフの少女、巨乳でお姉さんキャラの聖職者、猫耳の射手、お嬢様な騎士、大柄で頼りになる斧を持った女――まぁ、どれも美人で可愛くかぐわしい。性格も一級品である。


 兎に角、男の目的はしっかりしている。自分が、この恵まれた境遇にあるのは、きっと魔王を倒す宿命にあるからだ。

 男はもう一度、心をしっかり持ち、冒険の旅にまた一歩を踏み出すのだ。





 さて、そこからは割愛である。別に、元引きこもりと言うプロファイルが残るだけで、全く別人の冒険譚に興味はない。

 話は、魔王を倒すその瞬間にある。

 彼は実に男らしかった。仲間と今まで助けてきてくれた人々、何より、世界の全ての命の為に、魔王と相打ちになったのだ。

 その話に至る為には、様々な伏線があちらこちらにあった筈だが、こちらにもわざわざ注意を払う必要もない。

 要点は二つ、一つは彼はこの期に及んでも、己の人生が神によって作られたものであること、詰まり、体よく行けばハーレムエンドを迎える事を知らなかったと言う事だ。

 もう一つは、この世界で彼は死んで、神の恩恵は終了したと言うことである。




 そして、内容を端折って悪いが、実は、彼は奇跡的に生還する――と言っても、あの世界ではなく、この世界にである。

 奇跡的と言うよりも、彼を轢いたトラックは、実にブレーキのタイミングがよくて、彼に少しだけ追突して、停止したのだ。だから、彼はそのショックで意識を失った以外、大きな外傷などなかったのである。

 親が涙ながらに見つめている。

 彼は、意識を失う前の二つの記憶、惨めな半生と、輝かしい半生の二つを持っている。絶望した。あんなものは、全部嘘だったのだ。悪夢だったのだと。


 彼はその後どうなるだろう? 輝かしい半生があったのだから、満足して再び引き籠もるだろうか? もう一度人生をやり直す決心をするだろうか? 何もなかったように元に戻るのだろうか?

 その話はやめよう。

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