「ゴールドシップ君、君の見た宝塚記念の夢の話を聞かせてくれないか?」
アグネスタキオンがゴールドシップに近付いたのには、それなりに理由があった。
自分も皐月賞の夢を見たからである。
ゴールドシップと同じく、目隠しを外されたらゲートにいたのも同じ、四足歩行の大きな謎生物で、背中に人間を乗せているのも同じだった。
参考にイラストを描いて貰ったが、それは余りにも滑稽な生き物である。平たく言えば、走るのに特化した流線型の牛のような生き物である。
ゴールドシップは普段の素行が悪く、これを質の悪い冗談だと見なされていたのだ。
「面白いねぇ。参考にするよ」
タキオンは、このイラストに興奮しないで済まされなかった。それは、自分が見た夢に酷似していたからである。
あまりフィールド調査というものをしてこないが、この奇妙な一致はそれ以上の興味をそそられる。
普段の素行が悪いので、話しかけるだけで逃げられる。残念だ。
仕方ないので、ダイワスカーレットに話を聞く。
ゴールドシップの話から総合したイラストを見せると「なんか見た覚えがある」と言う回答が得られる。
有馬記念で一着を取った夢を見た事があるのだそうだが、その時の夢が、まさにイラストのような姿をしていたという。
「凄いじゃないか。夢を現実にするように頑張るといい」
そうやって声を掛けると、「当然じゃない!」と明るい笑顔を返した。
その後、セイウンスカイからは皐月賞で嫌な夢を見たと言われる。
「まぁ、夢の中では勝ったけどね」
飄々としていてつかみ所がないけど、この証言は嘘ではなさそうだ。
そうして、徐々に情報を掴んでくる。
サイレンススズカは弥生賞で上に乗った人間を振り落としたと言う話を聞いたりした。
意を決してウマスタにイラストを上げてみることにした。
反響は上々だ。そんな出鱈目な話はあるかという意見の中に、ちょこちょこ「似たようなのを見た事がある」と言う話が出てくる。
一方、ウマ娘以外には、そう言う話が一切出てこない……否、出てこない事はないのだが自分がそうであったと言う夢が一切ないのである。
自分が世話のしたことがある動物にそういう生き物があるとか、宝塚記念で涙を呑んだ夢を見たとかそういう話だ。
これは、潜在意識にウマ娘が別の生き物であった記憶を埋め込まれている可能性があると確信したが、同時に「イラストを見せられたところで、自分が見た夢を思い出そうとしたものに引き寄せられている」とか、「そう言う話を聞いてから夢を見たのだ」と反論も出てきた。
だが、タキオンにとって、それはいい加減な反論に思えた。自分の見た夢も、ゴールドシップの話も全く先入観のない時点でそうだったからである。
そうやって自分の研究に自信を持って来たところで、たづなさんが訊ねて来た。
「そのイラスト、不安になる子もいるから消して貰えませんか?」
タキオンは、のらりくらりとその意見を躱そうとしたが、秋川理事長にも諮ると言うので、研究を止めざるを得なかった。
今までトレーナーが発光するとか色々な実験をやってきたが、この話はそこで止められてしまった。
謎の巨大生物に対する調査は、それが人類の歴史の上で非常に重要な生き物であった事は分かっている。悲劇的な結末が沢山あったことも知っている。人間を乗せていたことも、それで様々な戦争に出ていたことも知っている。だが、それについては、これ以上言及してはいけないらしい。
研究をまとめたファイルを、ちょっとした謎かけで解けるパスワードを掛けてネットに放流する。
タキオンの出来る反攻はそれまでだった。
情報をまとめれば、ひょっとしたら未来予知も出来るかも知れない。しかし、それがウマ娘に影響しないとは限らない。
何も言わないのが正しいのかも知れない。
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