私はまぁ、それなりに名前の知られている声優ではある。
顔もまぁ悪くない方だと思ってるし、一定の数のファンがいるのも知っている。
声優と言う仕事を(他の役者と比較して)馬鹿にする人が世の中にいるが、我々は真剣だし、全身全霊を込めてお芝居をしている。
自分で言うのもナンではあるけど、役作りマニアと思われているフシはある。
大人の女性にオバサン、お婆ちゃん、妖艶なお姉さんにロリやショタ、やさぐれ、馬鹿っ子、ポンコツ知将キャラに狂気キャラ。動物や人外、ロボット……絶叫も悲鳴も優しい問いかけ聞き心地のよい朗読も、別名義でエロもやっていて、なんでも出来る人と思われている――そのお陰で「敷浪あやかの声ってマジでわかんねぇよな」と言われるのはある。
年齢的に成熟期と言われるのは嬉しいが、一歩間違えれば「顔はお呼びではない」と言う側面もある。
近頃は可愛い声優さん達ときゃっきゃする仕事よりも、大喜利やらされたりもしていて、これでいいのか? と言う思いはある。
それはもっとお芝居に集中すべきと言う意味もあるし、人前でどういうアクションをすればウケるのかと言うのもある。
さて、そんな時、教育番組の声優を頼まれた。
恐竜の女の子とお姉さんが、科学実験したり物作りしたりする番組だそうだ。
私は……お姉さんではなく恐竜の方である。
まぁ妥当だ。
お姉さんは事務所の後輩の梅宮さりあだ。最近すっかり力を付けてきていて、可愛い後輩の一人である。
その時私は思ったのだ。
自分の身体で演技すべきではないかと。
人気のあるマスコットキャラクターは動きだけで演技が完結している。
この恐竜の女の子に添え物として自分の声を入れても、むしろ邪魔になるぐらいではないだろうか?
アテレコがいけないとは思わないし、そう言う仕事もしているけれど、このとき、何故か、この役こそが自分の全てをぶつけるべきだと思ったのだ。
そういう訳で、オファーを受けて最初の打ち合わせの時、「中の人もやります! ギャラはそのままで結構です!」と言ったのだ。
当然、そんなのは困るとか、流石に着ぐるみまではやらせられないとか色々声もあった。
しかし、熱心に説得すると、私の情熱を何とか汲んでくれたのだ。
これも芸の肥やしになる筈だ。
私はエキゾチックアニマルのカフェや動物園でしこたま爬虫類の動きを観察し、怪獣映画を研究した。
デザイン画を見ると、前傾姿勢ではなくて腰を入れている感じがあったので、小さい頃やっていた日本舞踊の学び直しをする。
腰を入れて膝を曲げ、手を胸の位置に構えて、首をキョロキョロを向ける。歩くときは日本舞踊の動きを少し早回しにする感じで進み、上半身をなるべくブレさせないようにする。
スーツの製作期間もあるので、その間にしっかりと役作りをしていく。
シリーズが始まっても別の仕事は請けられるが差し当たりは目の前の仕事に集中しよう。
決まっていた仕事を片付けると、役作りに専念したのだ。
それでやっとスーツが出来上がった。
私の役作りも仕上がった頃だった。
スーツは下半身と胴体と頭で別れていて、先ず尻尾と足が一体で作られた下半身を着用する。
全体的にゴムとラテックスで作られているのだが、お腹の部分はストレッチ素材で出来ていて、それが胸の下ぐらいまである。
それをサスペンダーで吊り上げる形になっている。
次につや消しのエナメル素材の面下を被る。首の部分は大体隠れるそうだが、それでも隙間が出る可能性を考えると必要なパーツだ。
これで首から肩と胸の上ぐらいまでが隠れる。
それで上半身だが、これも両手と胴体が一体で作られていてそれを被る形で着用する。
案外腕の動作にクリアランスがあるのに驚いた。
最後に頭を被る。
顔の周りのトゲの部分の後ろ、後頭部が二重になっていて、外側は髪の毛を模した柔らかいトゲトゲな感じのパーツが覆っていて、そこを持ち上げると、ウレタン素材で出来た覆いが出てくる。それをこじ開けて頭をねじ込んでいく。
頭はかなりみちみちで、覆いの部分のファスナーを閉めると首をぶんぶん振ってもずれたりしない。
髪の毛パーツを後ろのスナップに止めて完成だ。
中では色々機械が動いていて、私の口の動き、目の動きが外側の目と口に対応している。
レスポンスはかなり良好で、喋ったりするとそれどおりに動いている。
中にマイクが仕込まれているので、そのまま喋れば映像に反映される。
ヘッドの中では動作音が結構しているが、ノイズキャンセラーが有能なのか、そういう音を拾うことはない。
番組では工作をするので手先は割と自由度が高い。
手のひら側はゴムの引いてあるグローブで、手の甲に恐竜の鱗が表現してある。
キャラクターは可愛い顔の恐竜だ。
女の子と言う設定だけど、マスコットキャラ的な声を作って出す。
我ながら動きの研究もしただけの事はある。
爬虫類の雰囲気も出ているし、ひょこひょこ動いているのは可愛い。
尤もこのポーズ、保っておくのは結構疲れる。
普通に立ち上がり、手をだらりと下ろせば、人間感と言うかもっと端的に言えば、おっさん感が出てくる。
これは何か勘違いされかねないから、人前ではできないな……
演技してない時でも、強いて女の子感を出さないといけない。思った以上にしんどいな。
恐竜の女の子はサウラちゃんで、お姉さんは冴子お姉さんと言う名前だ。
番組の背景としては、人間の世界に勉強しに来たサウラちゃんが、冴子お姉さんと一緒に、人間の社会を勉強するというものだ。
科学や工作が中心だけど、偶にロケにも出る予定だ。
お姉さん役のさりあちゃんも、教育番組を勉強して来ていて役作りは万端だ。
「先輩、凄いですねぇ」
頭をかぶる前の私の姿をしげしげと見ながら感嘆の声を上げた。
「いい加減、身体も張らないとね」
「そんなぁ。嫌ですよぉ。私、声の演技以外は素人みたいなものなんですから。先輩に食われたら困りますよぉ」
おだてているのか煽っているのか今ひとつ掴めないが、取り敢えず好意的に受け取った。
私は何だかんだ大学まで演劇をやってたクチなので、養成所育ちの若い彼女的にはそれがコンプレックスなのかも知れない。
実際本番になると、彼女の演技はなかなかのものだ。
子供向け番組特有の大げさな仕草は、研究と練習の末に手に入れたのだろう。分かりやすいけど嘘くさくない。
彼女は努力家なので、手を抜くはずなどなかった。
私の方も、思ったように動けていたと思う。
最初はゴムと筒を使ったクラッカーを作って遊ぶのだが、これがすごい勢いで紙吹雪を飛ばすので、片付けとか準備を考えると一発OKで行きたいところだった。
それ故に、私も彼女も全力で取り組み、そして望み通りOKが出た。
次の回の撮影のために休憩する時、「やっぱり先輩って凄いですね!」と褒めてくれる。
「さりあちゃんも上手く出来てて、私の若い頃に比べれば大したものだよ」
そんな感じで褒めあってる。
「それで先輩……SNS用に写真撮っていいですか?」
彼女は気後れした様子で頼んでくる。
「全然いいけど!?」
「なんかこう、結構苦しそうに見えるから大丈夫かなって」
彼女ははにかみながら笑うと、頭を取り付ける手伝いをしてくれた。
「はい、撮りますよー」
そう言うとぎゅっと抱きついてきた。
私はそこそこチビなので、包み込むようにハグされる。
「かわいぃ!」
さりあちゃんは大喜びだ。
サウラちゃんの声も中身も伏せられている。
勘のいい人には声は分かるだろうが、中の人はわかるまい。
「私と秘密を共有するんですから、これぐらい楽しまなくちゃ!」
そう言うと、もう一度抱きついてきて「むっちゃ可愛い!」と笑っていた。
番組撮影は順調だった。
工作をしたり、簡単な理科の実験……例えば赤シソを煮て、レモン汁を入れると色が変わるところを見たり、炎色反応の実験もした。
子供向けなので、pHだの金属イオンだのと言う説明は抜きだ。
純粋に世界の不思議に触れて、学ぶことに興味を持って欲しいと言うだけである。
さりあちゃんはそういう実験についても、先に練習を繰り返していたそうで、撮影は順調でトラブルもない。
炎色反応のあとは、花火工場の見学がある。
つまりロケである。
時期は夏前で花火工場では夏に向けた仕込みの真っ最中である。
着ぐるみはロケ向けにいくつか排気ファンの付いている仕様で、思ったよりも快適に撮影ができた。
さりあちゃんは根っから器用なのかも知れない、工場の人に教わってそつなく花火の星を詰める作業をしていた。
着ぐるみは帯電しやすいだろうと言う理由で、工場内の立ち入りは禁止された。けれど工場の表で撮影したり、工場内でさりあちゃんに声で茶々を入れる役回りとか、何だかんだで動きっぱなしだ。
夕暮れに、さりあちゃんが組み立てた花火を試射した。
小さな花火が一発、夏の近づく空に開いた。
「綺麗だね! 冴子お姉さん!」
「サウラちゃん。本当にそうだねぇ」
私がさりあちゃんにより掛かると、彼女は私の身体に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。
この時の映像は思い出のシーンになった。
番組は実に好評だった。
勉強になるし、子供たちが色々なことに興味を持つ切っ掛けとなったと喜ばれる。
リアルイベントにも出演することになり、情報番組のゲストにも呼ばれた。
中の人はかなりしっかりと秘匿されていて、生身の私はこそこそ動く必要もあった。
そんな時、さりあちゃんは細かい事を誤魔化すのに協力的だ。
勿論、それでも業界で知っている人はいるが、相変わらず世間的に中の人は謎なのだ。
番組は再編のたびに拡大した。
最初は日曜朝の十五分だったのが、三十分番組となる。他の子供番組と合併だの吸収だので、一年後には日曜朝に一時間、別番組だが土曜の夕方に三十分の登場機会ができた。
実験と工作とロケ以外に、歌とダンスも披露する必要が出てきた。
流石に口パクでやってくれとお願いされたが、私はそれは出来ないと断った。
ダンスは子供向けということもあり、そんなに激しくもないのだから、着ぐるみだという理由で甘えていられない。
サウラちゃんと冴子お姉さんの息ぴったりのダンスと歌は、結構話題になった。
歌番組にも登場するけど、誰も中の人の事がどうだと野暮なことは言わない。
本業の方の声優は暫く休んでいたが、サウラちゃんの仕事が忙しくなる時期に入ったのを見計らって、逆に細かくやることにした。
表立った私の仕事がないのを見て、疑う人が出てきそうだからだ。
私個人に対するインタビューで、サウラちゃんの話が出たけど、当然とぼけた――と言うか、何の文脈もなく"関係ないかもしれない"番組の話をするのは流石に失礼だろう。
それこそ私の仕事がないのに、局に私がいれば感づかれるだろうし、声もまぁその気になれば調べられるだろう。でも、そう言うことを言うのは無粋だと言う意識があるのか誰も言わない。
ネットで色々調べれば匿名のクセして、断定口調で語る人はいるけど、所詮そんな程度のものだ。
仕事はしんどいけど楽しい。
近頃はサウラちゃんの待機姿勢がそんなに苦痛ではなくなってきたし、息苦しさとか暑さにも耐性が出てきた。
夏のロケは冷却剤のジャケットを着るし、冬もそんなに苦痛になる場面はない。
さりあちゃんはカメラがあってもなくても私に――と言うかサウラちゃんにぞっこんである。
サウラちゃんと歌った歌は、彼女のライブの定番になる。
そうもなると、サウラちゃんが出て行かない訳にはいくまい。
世間は、「あの姿でよく動けるな!」と言うけれど、「その上、歌っているんだぜ?」とは言いたくても言えない。
さりあちゃんとは仕事が終わった後もよく遊んだ。
仕事の関係と言うよりも、ここまで来ると戦友のようなものだ。
プライベートでもサウラちゃんと一緒にいたいぐらいだと言うぐらいだから筋金入りである。
番組が三年目に入る。
朝の情報番組のお天気コーナーに週イチで顔を出すようになった。
徐々に局の顔として認知されるようになってきたのだ。
そんな折、サウラちゃんと冴子お姉さんのファンブックが出る事になった。
写真も沢山撮るし、特典DVDには「サウラちゃんの一日」と称した映像を撮ることにした。
「一日って言うんだから、私一日脱ぎませんね!」
調子に乗って言ってしまったが、それもそれで悪くないか。
スタジオにサウラちゃんの部屋を用意する。
恐竜グッズや冴子お姉さんとの写真が置いてあるし、壁にティラノサウルスの格好いいポスターが貼ってある。
ベッドに寝ているサウラちゃんを冴子お姉さんが起こしに来る。
私は「眠いよぉ」と言いつつ、お姉さんの手を引っ張る。
「もう! しっかりしなさい!」
逆に冴子お姉さんに引っ張られて起き上がる。
「おはよー」
「おはよう、サウラちゃん」
目を擦りながら周りを見渡し、そしてカメラに気付くと驚き、恥ずかしがる。
「今日はね、サウラちゃんの一日に密着するからね!」
「恥ずかしいよぉ」
顔を洗う感じのシーンとか、朝ご飯のシーンなんかは良い感じ生活感が出ている。
車に乗せられてロケへと向かう。
場所は砂浜。
「うわー! おっきー!」
興奮気味の私をお姉さんは優しく頷く。
きちんと放送される番組のロケでもあるけど、オフショット風の映像も撮影する。殆どカメラが回り続けるから、休憩する暇はあまりない。
ここで言う休憩とは頭を外して水分を摂ったりすることだけど。
番組での撮影ではないところでは、お姉さんと仲良くしている。
DVD用のカメラはそういうところをキッチリ撮影していく。
"休憩時間"にお姉さんから「少しお散歩しようよ」と誘われて、二人で浜辺を歩いている。
それを遠くから撮影している。
いい映像だ。
ロケが終わり帰る途中、ファミレスでご飯を食べると言う映像も撮影する。
ファミレスは貸し切りではないので周囲の視線が熱い。
勿論、食べる風の映像だし、他のお客さんから見えないところで撮影している。
お店にいた小さい子が「サウラちゃんだー!」と喜んでいる。
「ご飯おいしかった?」
無邪気な子供の声に、「うんおいしかったー!」と喜ぶ。
スタジオに戻ってきて、お姉さんに歯磨きを手伝って貰う。
そうして部屋に戻り、「おやすみなさい」と言って布団を被って終わる。
撮影終了だ! 漸く脱げる!
髪の毛のパーツを引っ張るのだがめくれない。
髪の毛の部分に手を突っ込んで、スナップを探すのだが見つからない。
そもそもヘッドと首の境目に隙間がある筈なのに、そんなものは一切ない。完全にみっちりと詰まっている。
私は身体のあちこちを見る。
上半身パーツと下半身パーツの間とか、手の様子とか。
造形物ならば――着るものならばある筈の繋ぎ目や隙間は何処にもない。
「これってどういうこと?」と冴子お姉さんに尋ねた。
「どういうことって……それより貴方、よくそれで見えるね?」
そう言われて、自分の視界が額ののぞき穴からのものではない事に気付いた。
自分の目を塞ぐと、確かに視界が隠れる。
「目で見えてる……」
当たり前だが当たり前の事ではない。
お姉さんは「口を開けて」と言うので開く。
「べろ動かして」と言われて動かすと、「凄い……動いてる!」と驚いた。
私は完全に"生物"となっていた。
「ひょっとしてその声もさ……」
お姉さんが驚いているので、「えっ!? うん……あーあー。青巻紙赤巻紙黄巻紙」と発声練習をして見る。
「それ……素?」
意識せずに出した言葉は完全に"私"のものだった。
「ちょっとまって……こほん」
私は咳払いして意識して声を出す――でもなんだか変な気分だ。
「た……確かにあやか先輩ね……」
お姉さんが微妙な顔をしている。
様子がおかしいと気付いたスタッフが次々に駆けつける。
脱げない、そもそも完全に? 恐竜になってしまったの?
どうしようもなくなり、これは上に諮るしかなかった。
このままの姿で家に帰ることもできないし、どうしようとなった時、冴子お姉さんが私と一緒に近くのホテルに泊ってくれるという。
私はすっかり安心して、部屋で落ち着こうとする。
お姉さんは「そんなに怖がらなくてもいいわ。可愛い姿なんだから」と励ましてくれる。
「よかったら抱きついてもいい?」
お姉さんなら大歓迎だ。
私達は抱き合い、そして気持ちは落ち着いてくる。
その日はゆっくり眠る事が出来た。
翌日のロケは中止になる……と言う事はなく、実に普通にやることになった。
脱げなくなったことは兎も角として、今日の予定に穴を開けるのはマズイだろうと言う事になった。
今後の対応は、プロデューサーを含めて上の人が何とかしてくれるとスタッフに言われ、不安になりながらも仕事をする。
カメラマンやお世話をしてくれるスタッフは「凄くリアル……」と笑う。
リアルも何も恐竜の身体になってしまったのだけど。
周囲がキャッキャしていると、冴子お姉さんは「私のサウラですけど?」とくっついてきた。
「サウラちゃん。大丈夫だから。絶対に大丈夫だから!」
お姉さんが励ましてくれる。
ご飯の時はどうしよう……スタッフもお姉さんも悩んだ。
「でも設定上、人間と同じモノ食べるし」
お姉さんがそう言うと、私の分のロケ弁を食べさせてくれる。
今日のお弁当はロコモコ丼だ。
スプーンで掬って口に入れてくれる。
「自分で食べられるよぉ」
私が苦情を申し立てても「だーめ!」と言ってお姉さんが食べさせてくれた。
お礼にと言うと違うかもしれないけど、「お姉さんだーいすき!」と抱きついた。
東京に帰ってきた頃には、私の扱いが決まっていた。
"人間に戻るまでの間"、事務所の預かりとなった。
ただ、キャラクターとしての権利は局が持つので、仕事については局と事務所の協議で決めるそうだ。
とは言え、サウラとしての仕事以外は取り敢えず全てキャンセルとなり、その代わり、サウラとしての仕事を増やすと言う話になったようだ。
それで、私は何処で暮らすのか?
強く主張していた冴子お姉さんの勝利となった。
局と事務所でこれからの話をしたあと、お姉さんの部屋に戻る。
お姉さんは「サウラちゃん……これからどうしよう?」と真剣な口調で話してきた。
「しょうがないよ、この姿で暫くやっていくしかないんだから」
悩んでも仕方ないものはどうしようもなく受け入れるしかない。
私はお姉さんを抱きしめて「じゃぁ、一緒にいてくれる?」と尋ねる。
「勿論だよ!」
そうだからこそここにいる。
その日はサウラのお仕事はなかったのだけど、お姉さんのお仕事がある。
お姉さんは私を留守番させるのを嫌がり、私を職場に連れて行く。
職場と言っても声の収録スタジオ――数ヶ月後に放送されるアニメのアフレコのお仕事なのだ。
一日と一晩で私の事が業界で知れ渡っているようだった。
スタジオでは特に咎められることもなかったのだけど……急に穴の空いたキャストの話になったとき、「サウラがやります!」と言ってみた。
声の演技だ。普通に出来る筈だ。
その役は本当に端役で、新人の声優さんの仕事だったが、その声優さんがどうやら"飛んだ"そうなのだ。
私は声を作り、台本を読み込み、作品の背景や状況を考えて演技する。
一言二言の演技だけだ。
でも、懐かしい緊張と達成感を味わう。
自分の声が地上波に乗る。ネットに配信されるし、円盤にもなる。
それを意識するだけで胸が熱くなる。
仕事が終わった後、冴子お姉さんはニコニコしている。
「サウラちゃんの声優デビューだね! ご馳走を食べましょう!」
お店に許可を取り私とお姉さんでご飯を食べる。
個室の焼肉屋さんでお肉を食べていく。
「サウラちゃん、お肉美味しい?」
「美味しい!」
肉食獣だからなのかどうか分からないけど、生のお肉の段階で凄く美味しそうで、そのまま食べたい気持ちになる。
自分の心の中でブレーキを掛け、お姉さんが焼いてくれるお肉を食べていく。
それから私とお姉さんはペアでお仕事をすることが多くなった。
お姉さんの歌のお仕事も一緒に歌うし、声優としてのお仕事は端役、脇役が用意されるようになる。一言二言のものから、数話登場するゲストのようなキャラクターの声、いろいろだ。
それらの作品の"出演者"のなかに"梅宮サウラ"の名前がある。
「家族だからね!」
お姉さんは得意気だった。
世の中が次第に私をそういうものだと受け入れてくれるようになった。
イベントで色んな人に出会うと、みんな驚くけど、私を見て可愛いと言ってくれる。
動物のように扱おうとする人が出てくると、お姉さんが叱ってくれる。
お姉さんと一緒にいると安心できるし、一緒に眠るとぐっすり眠れる。
声のお仕事も順調だし、私のキャラクターとしてのスポンサーもついてくれる。
教育番組のお仕事だけじゃなくて、環境保護のPRのお仕事、博物館の名誉館長なんかにもなった。
全部事務所の人が見つけてきてくれたお仕事だし、だからこそ私は手を抜かずにしっかりお仕事をやり抜く。
その時、お姉さんはずっと横にいてくれる。
「好きだよ、冴子お姉さん」
「私もサウラの事が大好きよ!」
0 件のコメント:
コメントを投稿