2023年9月26日火曜日

【全年齢版】色々語るけど結局百合になる話

  自分の美貌に対して悩みのある女性が、そう言うの嫌いな女と百合に落ちるお話し。


 私は私の顔が嫌いだ。

 それはブスとか嫌な親に似ているとかではなく、美人と言う一点で苦労させられてきたからだ。

 美人にも美人なりの苦労があると言うと、「もっと苦労している人はいる」とか、「あなたは恵まれている」とか言う説教をする人がいる。

 どんな反論も「あなたは美人だから」の一言で終わらせられてしまう。

 アフリカの子供が何万人と飢餓に苦しもうと、二食抜いた空腹が癒える訳ではない。

 貴方達が貴方達なりに苦しんでいるかも知れないけど、私の苦しみとは無関係だ。


 自分の事を聡いとは思わないが、私は小学生ぐらいから自分の美貌が嫌になっていた。

 お絵かきの授業の時、私と前に座っていた子が、どちらが言い出したとはなしに、虹色のお花って可愛いよねと言い、そして二人同時に虹色の花の絵を描いていた。

 彼女の方が絵が上手いし早い。私より一足先に先生に見せに行ったのだ。

 私の二人前ぐらいで列を作っていて、彼女の番になったとき「こんなお花はありません。もっと現実を見て描きましょう」と言う様なことを言った。

 私はドキドキした。同じ事を言われるのだと。

 でも列から抜けていいとも思えなかったし、描き直す時間もない。緊張したまま先生に見せると、「まぁ素晴らしい! こんなお花あったら素敵ね」とニッコリした。

 その女性教師の顔が恐ろしくて堪らなかった。

 挙げ句、「みんな見て!」と私を褒めそやしたのだ。

 目の前の女の子には軽蔑の視線を送られるし、後にその子が陰口を叩くようになるのを知っていた。

 その一件は私のトラウマになった。


 他には、小さい頃に知らない大人が「可愛い!」と褒めちぎった後、去り際に「小さい頃整った顔だと大人になったら不細工になるから」と笑っていたのが聞こえた。

 私は表向き可愛いとか美人と言われつつも、人から軽蔑される存在なのだと気付いたのだ。


 今でも「あの女はペーパーテストダメだったけど、教授が見た目で合格を出した」とか「ああ言う女にはなりたくない」とかそう言う話を耳にすることもある。

 かと言って近付いてくる連中はセックスしたい男と、私を何か便利に使いたい女と、金儲けの道具にしようとでも思ってる大人と……そんな碌でなしばかりである。

 基本的に人の「好き」とか「愛してる」が全く信用出来ないのだ。


「でも……」

 人は言う。

「でも、それは貴方の心の問題ですよね?」

 と。

 人生の幸福度の問題なんて、心の問題が解決すれば大概解決する。

 世の中の社会的な問題が、お金さえあれば解決するのと同じように。

 それが解決しないから問題なのだ。

 私が幾ら素直に相手の好意を受け入れたところで、相手が私に対して何を考え、どう思っているかを変更することは出来ない。

 男と付き合うことは幾人かあったが、どれもこれも私と付き合っていると言う事を鼻に掛けていたし、女友達も幾人かいるがどれもこれも「合コンの華」とか「ナンパされたら一緒にタダで遊べるじゃん」とかそんな話ばかりだ。

 人を受け入れようとするとこんな状況になるのだから、それを私の心の問題に帰するのは無責任だ。


 ただ、じゃぁ、そういうものを社会の責任だと腹を立てる気にもならなかった。

 女性の権利がどうのこうのと騒いでいる人は、もっと人に愛されればこんなことにならなかっただろうにと思える人ばかりで、私がその仲間に入れば、きっとこの人達も私を利用するだろうと思えるからだ。


 世の中には真実の愛があって、それは奇跡的な力を持つのだと言う発想もいい加減軽蔑していて、そう言うお話しでは美人は大抵悪役にされる。

 尤も、主役を演じている女優も男優も美男美女の類なのだが。


 そんな私が最近お気に入りなのは立ち飲み屋だ。

 立ち飲み屋と言うのは割と地域の要点で、出入りする人はそこを出禁になりたくないと言う圧力が加わる。そう言うお店では割とやんちゃな人でも行儀良くするものだ。

 美人のお姉ちゃんが入ってきて、他のお客さんの居心地は悪いだろうけど、よそよそしくもありながらセクハラ的な事は言って来ないし、言われても"お姉さん"が助けてくれる。

 このお姉さんが割と歯に衣着せないタイプの人だ。年齢は三十代行くか行かないかだろうか? あるおっさんが「姉ちゃん、彼氏とかおるの?」と聞かれて、私が答えにくそうにしていると「大丈夫、あんたは彼氏になれることはないから」と突っ込んだり、話がやや下品な方向になりそうなとき、「おい、そこの辺にしておけ。そう言う話は野郎だけの時にやりな」と言って笑いを取ったりする。

 店主は割とお爺ちゃんだが、かくしゃくとしている。とは言え寡黙だ。


 お姉さん……さやかさんは割と私にも容赦がない。

 私が男を振った話をすると、「あんたね、男だってそれなりに覚悟して告白してるんだから、そんなことやってるといい死に方しないよ」って叱ってくれるし、彼氏がいないと言えば「こーゆー女はね、厄介な男しか寄りつかないの。可愛い子には彼氏がいるってモノだからね。その可能性気にせず突っ込んで来る男は十中八九ヤバイ男だよ」とか痛いところを突いてくる。

 とは言え、総合的に言えば優しい人ではある。

 私はいつの間にか彼女に魅了されてしまった。


 お店自体は小さな焼き鳥屋で、割と古い店の作り。とは言え小綺麗だし焼き鳥は美味しい。ビールなんかも安くて、一時間半いたところで二千円も出せば楽しく飲み食いが出来る。

 それなりにお酒を飲む側の人間なので、「大酒喰らいの美人は漫画だけにしてくれよぉ」と茶化される。

 昔は炭火だったらしいが、店主が高齢なのと周辺施設の気遣いから遠赤のヒーターを使っている。そこここが煤けているのはかつての名残だ。その風情も大好きだ。


 今日もねぎまとこころ、つくねを食べながら楽しくビールを飲んでいる。

 おっちゃん達の地元トークを聞きながら、くつろいだ雰囲気を楽しむ。


「さやかさん。今度、一緒に遊びましょうよ!」

 私が人を遊びに誘うなんて、記憶の範囲では初めてだった。

 私は不定休とはいえ、ある程度裁量の利く仕事だったからお店の休みに合わせる事もできた。

「いやいや、私なんかよりもっと釣り合う人いるでしょう?」

 お姉さんはそうやって笑うけど、「みんな驚くんですけど、私、案外友達少ないんですよ」と開き直る。

「あんたねぇ。そういうの言うもんじゃないよ?」


 とはいえ、彼女は同意してくれた。

 翌週の水曜日、お店が休みなので一緒に街へと遊びに出た。

 ただ、さやかさんはどことなく野暮ったい雰囲気が漂っている。

 一つ一つが悪いわけではないけど、なんとももやっとする。


 と、言うわけで、一緒に服を探したり有料のパウダールームに入ったりと、彼女のために走り回った。

 さやかさんは「こんなの私に似合う?」とか「いやいや、こういうの貴方みたいな人だからアリなんだって!」と言うのだけど、それなりに気に入って貰えたようだ。

「なんか、私の事に付き合って貰って悪かったね」

 彼女は照れながら笑う。

 ご飯とお酒を楽しみながら、「私、さやかさんの為なら何でもしますから!」と言ってしまった。


 私がこんなに特定の個人に入れ込むのは初めての事だ。それも女の人に。


 美人は美人と連みがちと言うけど、自分の事を不細工だと思っている子と遊ぶと何だかんだで自虐を始めたり、或いは逆に妙なコンプレックスを刺激している感じになる。挙げ句に、自分を立てる為にわざと不細工を連れて歩いていると言い出す人が居る。そんな声が相手の子に届いて、気分の悪い別れをする事になる。

 だから美人は美人と連みがちと言うのも理解できる。


 尤も私みたいな人間にとって、自分の美貌を武器と意識している人間も割と苦手だ。彼女達は私を仲間だと思って、結構エグい話をしてくる。

 私は愛想笑いをしているけど、かなり引いている。

 人の事を何だと思っているのだろう?


 尤も私も「人の事を何だと思っているんだ」と言われる事はよくある。

 美人であるが故に何でも上手くいっている貴方には、人生が上手く行かない人間の苦しさなんて分かるのかと言うのだ。

 そう言う人達が苦しんでいることは分かるし、それを努力不足だとか、自分の所為とか言うつもりは微塵もないが、かと言ってその苦しさを私にぶつけられても困る。

 私だって好きで美人になった訳ではない――勿論、そんなことを言えば怒られるのに違いないのだけど。


 そして人は反論する。

「スキンケアだってヘアケアだってするし、綺麗な服を着てるし、化粧もしている――そんな君が美人である事を嫌だと思っているだなんて嘘だろう」

 と。

 人間自分のやりうる限りで自分をよく見せるべきと言うのは本質として変わらないのではないか?

 勿論、そのよく見せると言うモノの中身もレベルも人によって違う。

 とは言え自分を不細工でルックスもないからと言う理由で、不潔である事や不快である事を認めるべきではない。

 私は自分が不美人だったら違う人生を歩めただろうと言う意識を持っているけど、私の存在自体が嫌いな訳ではない。

 私の顔がもっと不細工であったとしても、私は着飾ろうとは思うし、化粧もするし綺麗になる努力はするだろう。

 ただ……それもその立場にならないと分からない。

 分からない故に人との理解がズレてしまう。


 さやかさんは私の価値観の一端に触れてどう思っただろうか?

 次の休みの時、お店に顔を出すと、オススメした乳液の具合がいいとか、シャンプーの匂いが気に入ったと言う話をしてくれた。

 彼女の方から私を誘うと言う事はなかったが、私の誘いには大抵乗ってくれた。

 私は初めて本当の友達を手に入れたのだと思うことができた。


 ただそのすぐ後、実に胸糞の悪い出来事が起こる。

 震源地は前からいた。お店の常連、やたらテンションの高いオバサンのことだ。

 正直、私はこの人のことが嫌いだし、この人も何かに付けて当てこすりをしてくるのだ。

 周囲からすればファンキーなおばちゃんぐらいなイメージなのかもしれないけど。


 どういうオバサンと言えば、大体四十過ぎぐらいだろうか。

 ハンドメイドのアクセなんかを作っている人らしい――最初の頃、彼女のSNSを勧められて見に行って、趣味じゃないからフォローしないでいたらブロックされていたのだ。

 確かにアクセサリの出来はいいのかも知れないし、好きな人がいるのも分かるが、私には特に必要のない華やかさがあった。

 それを彼女は「自分が綺麗だから私の作るものに興味がないのでしょう」と言い放つぐらいだ。


 彼女の話の事が嫌いな理由は別にアクセの趣味が私好みではないと言う話ではない。

 散々自分の親が悪い親で、苦しみながら育ったと言うようなことを言いつつも、別の場面では自分が如何にいい家に育ったかを自慢するフシがある。

 自分は小さな頃からいじめられて育ったと言うような事をいいながら、自分の嫌いな女を自分のコミュニティから追い出したと言う事を、もの凄い手柄のように語っている。

 子供がいないようだが、子供のいる女性を悪く言う傾向にあるし、自分の旦那が如何に立派な仕事をしているのかを自慢したかと思えば、自分に優しくしてくれない最低な男だと言う話もする。

 自分はかつて女に生まれた事を呪っていたと言って、LGBTに理解があると言う顔をしているクセに、精神病の薬を飲む人間が人間のクズだとも言い張っている。

 何に関しても自分のご機嫌で物事を決めているし、それが実行できる人生だったのだろう。


 私は特に言い争うこともしない。

 彼女が私に対して何か言っても、棘の立たないように適当に返して、さっさとお勘定して帰るだけだった。


 それは私が店に入って、何本か焼き鳥を頼んだ時のことだ。

 注文直後、例のオバサンが入店した。

「あーら、また貴方? 確かに、地元の金持ちも飲みに来るけどさ、そんなことするぐらいならパパ活でもやったら?」

 第一声でこれってどういうことかと思った。

 でも、私は黙っていた。

「私、あんたみたいな子、凄く嫌いなんだよね。黙っていればみんなチヤホヤしてくれると思ってる。

 そんな人間が人生の何を知っているって言うんだろうね。

 面白くない人間が店にいるだけでお酒が不味くなるんだけど」

 何か虫の居所が悪い出来事があったのだろう。そう言うのを飲み込む術を知らないまま歳を食うとこういうことになるのだろう。


 私は冷静に「焼き鳥はどうでもいいからお勘定をお願いします」と伝えた。

「折角焼いてくれてるのに? 美人ならなんでも許されるとか思ってるの?」

 流石に腹が立って、「不細工でもこうやってお金があるんだし、それに満足する生き方って出来ないの? その歳で」と言って店を去ったのだ。


 そのあとさやかさんからメッセージが入った。

 そのオバサンはこの辺の地主の娘らしい。

 お店のために、私が来るのは勘弁して欲しいという話だった。

 明らかに話が違うのだが、しかしああ言う人間は自分の気に入らない人間を排除するのに必死になるし、そうなった時、私みたいな小娘がどうにか出来る話ではない。

 私は折れる事にした。


 あの人は、一生そうやって人生のあれこれを人の所為にして、そしていい事は何でも自分の手柄として言い張って生きていくのだろう。


 さやかさんとの連絡は保っていたし、それからも一緒に遊ぶことはあった。

 あのオバサンのことで嫌な話をすることもしないように気をつけた。

 ただ、少しは弱音を吐いてしまう時がある。

 そんな時、さやかさんはやや粗雑な言い方ながら、心配してくれるし、何かしらアドバイスもくれる。


 そしてある時、「私は他から冷たい女だって思われているんだ」と言う話をした。

「あれっ!? 私もアイリさんの事、冷たい女だと思ってるよ」

「えっ!?」

 私は硬直した。


「貴方ね、何だかんだで人と壁を作りがちなんだよ。

 人生、何があったか知らないけど、裏切られるのが怖いと思ってない?

 裏切られる可能性に怖がって、人を信用出来ないんじゃない?」


 私は咄嗟に「そんなことないよ!」と叫んだ。

 さやかさんは冷静な口調で答える。

「アイリさん、ひとつだけ言うけど、私、アイリさんの事を好きにならないようにしてるんだよ。

 あなた、自分を好きで近寄ってくる人を信用しないでしょう? 貴方の話を聞いてると、万事そんな感じじゃない。

 アイリさんははっきり言って美人だし、私みたいな女には貴方の苦労なんて想像も付かないけどさ。

 でも、私がこういう感じで接するから貴方って私の事が好きなんでしょう?」

 私は返す言葉もなかった。


 そしてさやかさんは笑った。

「私は、アイリが物怖じせずにどんなお店にでも入れるの、結構憧れているよ!」

 と。

 私は急に涙が溢れてきた。

 何がどうして感動したのかよく分からないのだけど、私を初めて認めてくれたような気がした。


 さやかさんは私を抱きしめて、そして「少しずつ人を信じていこう」と背中を摩ってくれた。


「さぁ、どこ行こう?」

 彼女はあるマスコットキャラクターのコラボカフェに行きたがっていた。

「アイリが一緒にいてくれるなら私も安心できるんだよ。

 こんなところ、私みたいなのが一人で入るのしんどいじゃない」

 そう言って私の背中を叩いた。


 カフェで将来のことを話している。

「父さん、色々身体にガタが来てて、そろそろ引退するって言ってるんだよ。

 それでさ、私、女の子でも入りやすいカフェみたいな立ち飲み屋さんをやってみようって考えててさ」


 紆余曲折あったが、今、私は彼女と彼女の夢のお店をやっている。

 女の子が入りやすいかは兎も角、明るい感じで入りやすいお店になっている。

 お酒の苦手な彼氏を連れて来る女の子や、近所のメイド喫茶の子が帰りがけに寄ったり、自由業っぽい陽気なおっちゃんがちょっかい掛けに来たり。結構楽しくやっている。

 商売的にもぼちぼちと言う案配か。


 私は笑いながらお客さんに応対する。

「ここ、ガールズバーじゃないですよ?」

 かつての私は言えなかったと思う。相手を信用しないから、相手がこういう冗談に怒ると思うと恐ろしかったからだ。

 お客さんは「べっぴんさんがおるから勘違いしてたわ」と笑い、そしてさやかさんの顔を見て、大袈裟に驚いたフリをする。

「おいおい、私に惚れるなよぉ」

「そうそう、さやかさんに惚れて良いのは私だけだから!」


 毎日は小さな積み重ねだ。いい事も悪い事も。

 仕事が終わったとき、「よし、沢山話せた!」と嬉しくなる。

「さやかさん、いつもありがとう。お疲れ様。あと、おやすみなさい」

0 件のコメント:

コメントを投稿